うわの空の理由3
18時20分に店の前に着いたが、後輩の姿はまだなかった。
「やっぱりな」
そう思いながら、スマホを取り出してメッセージを送る。
「焼肉屋の前におるから、慌てず落ち着いて来いよ」
五分ほどして既読がつき、
「今向かってます」
と返事が来た。
「こりゃ、半には遅れるな」
肩をすくめて店の前で待っていると、18時35分、後輩が息を切らせて駆けてきた。
「おぅ、おつかれ。もしかして寝てたか?」
そう聞くと、後輩は息を整えながら頭を下げた。
「すみません。風呂入ってて、ぼーっとしてしまってました」
「まぁ、予約は18時40分で取ってるから大丈夫や」
そう言うと、後輩は苦笑いしながら、
「遅れてくる前提っすね」
と返してきた。
そのやり取りにこちらも苦笑しつつ、店内へ入る。
肉の焼ける匂いがふわりと漂ってきて、それだけで腹が鳴りそうになる。
案内されたのは奥まった席で、半個室のように周りの声もあまり届かない。
「話するにはお誂え向きやな」
そんなことを思いながら奥へ進み、手前側に腰を下ろす。
後輩が気にしないように、食べ放題の店を選んでおいた。
コースを選び終え、「呑むか?」と聞くと、後輩は少し首を振った。
「いや、酒は…」
「ほな、ソフトドリンクの飲み放題でええな」
二人分をタッチパネルで注文し終えると、俺は自然と彼の方へ視線を向けた。
後輩は、どこか落ち着かない様子で、指先を合わせては離し、また合わせては離し、何か言いたいのか、言えないのか、そんな仕草を繰り返していた。
「急に誘って悪いな」
そう言うと、後輩は少し肩をすくめた。
「いえ、でも……珍しいっすよね。先輩、あんまりプライベートで仕事場の関係持ち込まないじゃないですか」
その言い方に、確かにそうかもしれんなと思いながら笑う。
「まぁな。最近忙しそうにしてる割にミスが多いって耳に入ってな。気になって声かけたんや。悪いな」
そう言うと、後輩の表情がわずかに曇った。
「いえ……」
返事はしているが、その顔はどこか“帰りたい”と書いてあるようだった。
だから、軽く笑って言い添える。
「まぁ、ここでの話はあくまでプライベートや。
仕事場で話したりはせんよ。
俺が気になって声かけただけやからな」
後輩は少しだけ視線を上げた。
「いや、まぁ……先輩はそういうとこ信用してますけど……」
「お説教しようってんじゃないしな。
単純にどうしたんかなって思ってよ」
そう言うと、後輩は観念したように息を吐いた。
「はぁ……」
そのまま下を向き、指先をいじる手が止まらない。
その様子を見て、俺は一番聞きやすいところから切り込むことにした。
「人間関係、上手くいってないんか?」




