うわの空の理由1
昼休みの食堂は、いつも通りざわざわしていた。
弁当のフタを開けて、味噌汁の湯気をぼんやり眺めていると、向かいの席にドカッと誰かが腰を下ろす気配がした。
顔を上げると、同期のやつが腕を組んで座っていた。
眉間に皺を寄せて、なんだか考え込んでいる。
「おぅ、偉く険しい顔してるけどどうした?」
声をかけると、彼は少しだけ視線を外してから言った。
「飯食ったら少し話せるか?」
改まった言い方に、思わず箸が止まる。
「ええけど、どうしたんや急に」
「まぁ、食ってからでええよ」
そう言われたので、急いで弁当をかき込み、食後のコーヒーを淹れて戻る。
「片付いたぞ」
声をかけると、同期は肩の力を抜いたように息をついた。
「おぅ、すまんな。実は、俺の指導してるやつがちょっと変でな」
「変?」
「おぅ。最近、反応が鈍いというか、ミスも増えてきてよ」
聞けば、仕事を任せる量を調整したり、話を聞こうとしたり、いろいろ試したらしい。
「何聞いても『大丈夫です』しか言わんのや」
「それは大丈夫じゃないやろ」
「せやねん」
そこで、彼は少し言いにくそうに続けた。
「お前、あいつと同じ高校やったやろ?
お前なら話すんじゃないかと思ってな」
「本人から聞いたことは、お前には話さへんぞ?」
「それでもええ。ちょっと様子見てやってくれんか」
そこまで言われたら断れない。
「まぁ、飯でも誘ってみるわ」
そう答えると、同期の眉間の皺がようやくほどけた。
「すまんけど頼むな」
彼はそう言って席を立ち、俺はコーヒーを飲み干した。
昼休憩が終わってしばらくした頃、仕事の合間に後輩の職場を覗きに行った。
ちょうど一段落ついたところらしく、机に向かって日誌を書いている姿が見える。
「おつかれ」
声をかけると、後輩はびくっと肩を揺らし、慌てて立ち上がりながら「お疲れ様です」と返してきた。
「そんなに慌てんでええから。日誌書き終わったら、ちょっといい?」
「あっ、はい。もう書き終わるので」
そう言って急いでペンを走らせようとするので、
思わず苦笑いが漏れた。
「いや、次の休憩のタイミングで俺の職場来れそうならでええよ。慌てて書くなよ、ミスるぞ」
「はい、わかりました。すみません」
「いや、いいよ。落ち着いてでええから。それか忙しいようなら手間やけど、帰る前に声かけてくれ」
軽く手を振ってそう伝えると、後輩は小さく頷き、また日誌に向き直った。
俺はそのまま自分の職場へ戻り、いつも通りの仕事に戻った。




