静寂の後で2
とりあえず、目の前の料理に集中することにして、二人とも黙々と箸を動かした。
揚げ物の衣がサクッと鳴る音と、焼肉のタレの香りが、疲れた体にじんわり染みていく。
食べ終わる頃には、なんとなく肩の力も抜けていた。
飲み物を飲み干し、店員におかわりを頼む。
「で?」
俺が促すと、
友人はグラスの水滴を指でなぞりながら言った。
「実はな、一ヶ月くらい前から住んでる部屋で深夜に変な音が聞こえてな」
「変な音?」
「おぅ。ノック音っていうのか、なんかを叩く音なんやけどな…聞こえてくる場所は毎回違うのに時間だけは同じ時間なんや。初めはめっちゃ小さいし気にしてなかったんやけど、ここんとこ音が大きくなってきてよ」
軽口を叩くような顔で俺を見る。
「へぇ。たしかに普通のやつに言うたら、気のせいとか隣の生活音とか言われて笑われそうやな」
「せやろ。だから、どうすっかなー思ってた時に、お前の背中が見えてよ。こら、ちょうどええわ思ってん」
「いやいや、お前それなら連絡くれればええやん」
「いや、お前忙しそうやし、なんか連絡しづらかったんや」
「そら、ごめんやけど…」
「まぁ、ちゃんと聞いてくれるやつがおるだけ助かるわ。普通に話したら笑われて終わりやからな」
「まぁ、聞くだけやけどな」
そう言ったところで、おかわりのビールが運ばれてきた。
友人はグイッと飲み干し、「ぷはぁ〜」と満足そうに息を吐く。
俺も烏龍茶を飲み干す、グラスの中で氷がカランと鳴った。
会計を済ませ、店を出るときに軽く手を挙げ合う。
「またな」
「おう、またな」
金曜の夜風が、ほんの少しだけ涼しく感じた。
それから二週間ほど経った頃、ふと、あのときの話を思い出した。
「そういや、あれどうなったんやろ」
気になって仕方がなくなり、メッセージより電話のほうがいいだろうと思って、通話ボタンを押した。
呼び出し音が一度鳴っただけで、すぐに彼が出た。
「もしもし、なんや?」
「おぅ、あれからどうなったんかなって思ってな」
「あー……お前と話して一週間くらい経ったら、急に音が止んでよ」
「へぇ、よかったやん」
「まぁ、そうなんやけどな……」
妙に歯切れが悪い。
「どないしたん?」
そう聞くと、彼は少し間を置いてから言った。
「なんかちょっとな……一ヶ月ちょい聞いてると、急に無くなると違和感というか……もの寂しいというか……」
「音が止んだならええやんけ」
「まぁ…、そうやな…」
苦笑い混じりの声が返ってきた。
「また飲みに行こうぜ」
「おう、またな」
そう言って電話を切った。
通話が途切れたあと、部屋の中に静けさが戻る。
グラスの氷がカランと小さく鳴った。




