静寂の後で1
週末の金曜日。
一週間の疲れがどっと押し寄せて、駅前に出た瞬間にため息が漏れた。
家に帰ってから飯を作る気力なんて、もうどこにも残っていない。
「今日は外で済ませるか…」
そう思いながら、駅前の飲み屋街へと足を向ける。
人の声と笑い声が入り混じった雑踏の中を、ふらふらと泳ぐように歩いて小道へ抜けると、さっきまでの喧騒が嘘みたいに遠くなった。
行きつけの定食屋へ向かおうとしたその時、肩をぽん、と軽く叩かれた。
振り返ると、ニヤリと笑った友人が立っていた。
「よぅ、珍しいやん」
明るい声に、思わずこちらも笑ってしまう。
「おぅ、飯作るのも億劫でな」
軽く胸に拳を当てて返すと、友人はへへへっと笑いながら肩に腕を回してきた。
「いつもの定食屋やろ? 一緒に食おうぜ」
相変わらず強引なやつだ。
でも、嫌じゃない。
「仕方ねぇな。一緒に食ってやるよ」
そう言って笑い合いながら、少し色褪せた暖簾をくぐる。
店の中に広がる出汁の香りが、空っぽだった腹をやさしく刺激した。
席につくと、店員が水を置いてくれて、そのタイミングでメニューをぱらりと広げた。
俺は迷うまでもなく、いつもの揚げ物の盛り合わせ定食と烏龍茶。
友人はというと、ページを行ったり来たりしながら、
「うーん……いや、これも……いや、やっぱ……」
と、いつもの優柔不断っぷりを発揮している。
結局、悩みに悩んだ末に、ビールと焼肉定食を注文した。
「しかし、珍しいとこで会ったよ」
友人が水を一口飲みながら言う。
その言い方がなんだかおかしくて、思わず肩をすくめた。
「お前こそやろ。こんな時間にここ通るんか」
「たまたまやって。腹減ってさ」
「でも、ちょうど良かったかもな」
友人がぽつりと言った。
さっきまでの軽さとは少し違う、
どこか考え込むような声だった。
思案顔でこちらを見てくる。
「ん? ちょうど良かった?」
問い返すと、彼は顎に手を当てて、目線を横に泳がせた。
「お前なら、笑わずに聞いてくれそうだからな」
「笑われるような話なんか?」
「まぁ、普通はな」
そう言ったところで、ちょうど店員が料理と飲み物を運んできた。
揚げ物の香ばしい匂いと、焼肉の湯気がふわりと立ち上る。
「まぁ、まずは腹拵えしてから聞いてや」
友人が笑いながらビールのグラスを持ち上げる。
俺も烏龍茶を手に取って、軽くグラスを合わせた。
「おつかれ」
「おつかれ」
カチン、と控えめな音が響く。
友人はビールを半分ほど一気に飲み干し、「ぷはぁ〜」と、おっさんみたいな声を出した。
俺も烏龍茶をひと口飲んで、乾いた喉を湿らせる。
グラスの中で氷が、
カラン……
と小さく鳴った。




