渓流ですれ違ったのは?3
山の中で会うには少し場違いな、白いワンピースにブーツを履いた黒髪の長い女性だった。
俯き加減でこちらに歩いてきたので、軽く会釈をしてすれ違う。
一人で滝を見に来るなんて、なかなか珍しいな。
そう思いながら、細い山道を足元に気をつけて歩いていく。
不動明王像の前まで戻ってきたとき、管理をしているらしいおじさんがこちらを見て、にこりと笑いながら「こんにちは」と挨拶してきた。
「こんにちは」
と返し、帰る前に不動明王像に手を合わせようとすると、
「いい写真は撮れましたか?」
と聞かれる。
「はい、納得のいく一枚が撮れました」
笑いながら答えると、おじさんは少し首を傾げて言った。
「今の時期に、若い方がおひとりは珍しいですね」
「そうなんですか? 先ほど白いワンピースの女性の方もいらっしゃいましたよ?」
そう言った瞬間、おじさんの顔が一瞬だけ強ばったように見えた。
ん?
何か言おうとしたが、おじさんは短く、
「そうかい? 珍しいね」
それだけ言うと、「では」と踵を返して寺の方へ歩いていった。
なんだ?
そう思いながら駐車場に戻ると、相変わらず俺の車しかない。
あれ?
さっきの人、どうやって来たんやろ?
首を傾げつつ時間と天気を見ると、まだ余裕はある。
もう少し練習してから帰るかと、駐車場下の小さな渓流で撮影を続けた。
そのとき、ねっとりとした甘い香りが、急に鼻を強く刺した。
えっ?
周りを見回すが、花の咲いているものはない。
なんだったんだろう。
そう思いながら車に戻り、エンジンをかけてバックした瞬間、バックモニターの画面の端に引っかかるように、女性物のブーツのつま先が一瞬だけ映った気がした。
ゾクッと背筋が冷える。
慌ててその場を離れながら、冷えただけかもしれない、と自分に言い聞かせる。
帰り道、理由もなく体が重かった…




