離れたくないもの4
彼の異様な執着に胸の奥がざわついた。
理由は分からない。
ただ、あの“離したくない”という目が妙に引っかかった。
車に戻り、ドアを閉めた瞬間に息を吐く。
エンジンをかけ、急ぎ気味に車を出した。
近くのコンビニの駐車場に入り、スマホを取り出す。
画面をタップし、登録してある番号にかける。
「はい、○○寺です」
「あっ、お世話になっております。○△です」
名乗ると、電話口の女性がすぐに反応した。
「ご住職ですね。少々お待ちください」
その丁寧さに、思わず苦笑する。
しばらくして、落ち着いた声が聞こえた。
「お久しぶりですね。
今度はどうされましたか?」
その声に、先ほどの顛末を簡潔に伝える。
友人の様子、指輪の温かさ、そして“手放したくない”というあの目。
話し終えると、ご住職は短く言った。
「……早めにお越しください」
それだけだった。
明日にするか…、今すぐ向かうか…
ふと、彼の変貌ぶりが頭によぎる…
あの変貌ぶりに、胸がザワつく…
俺は深く息を吸い、そのまま寺へ向かうために車を出した。
寺の山門前に車を停めると、ご住職がすでに外で待っていてくれた。
「お世話になります」
軽く頭を下げると、ご住職は静かに頷き、
「こちらへどうぞ」
と本堂へ案内してくれた。
畳の匂いと、ほんのりとした線香の香りが混ざる空気の中、ご住職は正面の御本尊の前で立ち止まった。
「こちらへ出してください」
促され、小箱をそっと差し出す。
ご住職は何も言わずに受け取り、蓋を開けると、指輪がロウソクの光に反射するように光りながら姿を表す。
ご住職は何も言わずに御本尊の前に置いた。
そして、静かに読経を始める。
低く、ゆっくりとした声が本堂に響き、空気が少しずつ落ち着いていく。
半時間ほど経った頃、読経が止んだ。
ご住職は箱をそっと閉じ、「こちらへ」と別室へ案内してくれた。
通された部屋では、先ほど電話に出てくれた女性が湯気の立つお茶を運んできた。
「どうぞ」
柔らかい声とともに湯呑みが置かれる。
ご住職は湯呑みに口をつける前に、こちらをまっすぐ見た。
「相変わらず、変わった“縁”の物に好かれますね」
その言葉に、胸の奥が少しだけざわつく。
「あなたからの電話中に……小さな声で“離れたくない”という声が聞こえました」
淡々とした口調なのに、その一言だけが妙に耳に残った。
「……あまり深入りし過ぎるのは、身を滅ぼしますよ」
それだけ告げると、ご住職は席を立った。
部屋を出ると、外の空気は少し冷たく感じた。
「さて……彼になんて話すかな……」
車に戻り、エンジンをかけた。
ハンドルを握ると少し温かく感じた…




