梅の香りに2
朝から梅の香りを吸い込んだおかげで、なんとなく得した気分のまま出勤した。
まだ頭は半分眠っていたけれど、あの澄んだ甘さが鼻の奥に残っていて、気持ちだけは軽かった。
会社に入ると、上司がふいに鼻をひくつかせて言った。
「おっ、香水か? ほんのり甘い香りがするぞ。上品でええやないか」
「いや、つけてないですけど……」
そう答えると、上司は首をかしげた。
「そうか? 梅花香みたいな匂いやったけどなぁ。違うんか」
「いやぁ……満員電車で誰かの香りが移ったんですかね」
自分でもよくわからず、苦笑いしながら席に着いた。
確かに、さっきまで梅の香りを感じていたけれど、まさか自分に移るなんてことあるのか。
そんなことを思いながら、いつも通り仕事をこなした。
帰りは疲れもあって、遠回りはやめて最寄りのバス停へ向かった。
朝の決意はどこへやら、体は正直に重い。
でも、翌朝になると、また歩きたくなった。
あの梅の香りをもう一度吸いたくて。
それから毎朝、ダイエットコースとして遠回りの道を歩くようになった。
日が経つにつれて、あの家の梅は少しずつ花を増やし、香りは日に日に強く、濃くなっていった。
朝の冷たい空気の中で、梅の香りだけがふわっと温かくて、それを吸い込むたびに、胸の奥がすっと軽くなる。
「……ええ朝やな」
誰に聞かせるでもなくつぶやきながら、今日もその家の前を通るのが、ちょっとした楽しみになっていた。




