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梅の香りに3

歩き始めて一週間ほど経った月曜日の朝。

いつものように梅の家の前に差しかかると、塀の上に誰かが座って足をぷらぷら揺らしていた。

最初は気づかなかったけれど、近づくにつれて輪郭がはっきりしてくる。

髪の長い、淡い色彩の女の子だった。

白っぽいワンピースに、朝の光が薄く反射している。

「この家の子かな……?」

そんなことを思いながら軽く会釈すると、彼女はぱっと笑って、楽しそうに手を振ってきた。

思わずこちらも手を振り返す。

言葉は交わさない。

ただ、朝の空気の中で手を振り合うだけ。

「朝から珍しいな……」

そう思いながら、そのまま出勤した。

上司がふっと顔を上げて、

少しだけ眉を寄せた。

「……またや。お前、今日も梅の匂いするぞ」

「最近ダイエットで歩いてるんで……」

最近の出勤での出来事を話すと、上司は妙に納得したようにうなずいた。

「梅の香りがついとるんやろな。あれは香りの強い木やからなぁ」

へぇ、そうなんですね、と返しながら、

自分でもあの香りがまだ鼻の奥に残っている気がして、まあいいか、と軽く笑って仕事に戻った。

それから毎朝、女の子は塀の上でこちらに手を振っていた。

こちらも手を振り返すのが、自然と日課になっていた。

朝の冷たい空気の中で、梅の香りと、あの子の笑顔がセットになって、一日の始まりが少しだけ明るくなる。

そんな通勤が一月ほど続いた梅の花が散ったある日、いつもの場所に、彼女の姿がなかった。


「あれ……?」


思わず足が止まる。

でも、時間は待ってくれない。

そのまま出勤した。

翌日も、その次の日も、塀の上は空っぽのままだった。

手を振る相手がいない朝は、なんとなく静かで、なんとなく物足りなかった。


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