隣の部屋は?2
途中で店員さんが飲み物を運んできてくれた。
一人で熱唱しているところを見られた気恥ずかしさが少しあったけれど、店員さんは特に気にした様子もなく、静かにテーブルへ置いてくれた。
何曲か続けて歌っていると、残業の疲れもあってか、
どっと身体が重くなるような疲労感が押し寄せてきた。
少し休むかと思い、曲を入れずに椅子へ深く座り、軽く目を閉じる。
その時、隣の部屋から歌声が聞こえてきた。
澄んだ、高い女性の声。
最近よく耳にする流行りの曲だった。
カラオケ特有の音漏れに苦笑しながら、飲み物に口をつける。
それにしても、妙に上手い。
音の伸びも綺麗で、聞いていて心地よかった。
少し眠気もあって、その声に身を預けるようにぼんやりしてしまう。
今日はもう、この漏れ聞こえてくる歌声をBGMにして休んでいくのも悪くないな。
そんなことを思いながら、いつの間にか意識が遠のいていた。
内線の音でハッと目が覚めた。
どうやら本当に寝てしまっていたらしい。
慌てて受話器を取ると、「お時間10分前です」と店員さんの声。
しまった、寝てしまった……
そう思いながら急いで荷物をまとめ、部屋を出る。
ふと、隣の部屋から漏れてきた声が耳に入った。
男性の声だった。
あれ?
隣は女性じゃなかったか?
首をかしげつつも会計へ向かう。
時間が遅くなったせいか、受付はすっかり空いていた。
会計を済ませる時、なんとなく気になって聞いてみる。
「俺の部屋の隣、入れ替わりありました?」
店員さんが少し驚いたように顔を上げる。
「どうされました?」
「いや、女性が歌ってたと思ったら、帰り際は男性だったから……」
そう伝えると、店員さんの表情が目に見えて強ばった。
ほんの一瞬、視線が泳ぐ。
「……ずっと同じ方ですよ……」
震えるような声だった。
「そうですか」
それだけ言って店を出る。
いい声だったけど、隣が男性なら、あの女性の歌声は誰が歌っていたんだろう。
角部屋だったから、隣はその一部屋だけのはずだ。
もしかして同じ部屋にいたのか…
わからんな…
そう思いながら、明るい駅前が遠のいた気がした。




