隣の部屋は?1
仕事終わり、今日は朝から何もかもが上手くいかない一日だった。
別部署の先輩には理不尽に怒鳴られ、昼には上司から製品の行方で詰められ、帰る前にはトラブルで残業が伸びた。
金曜日じゃなかったら、きっと途中で心が折れていたかもしれない。
それでもなんとか一日をやり過ごし、更衣室で着替えを済ませると、抑えていた怒りが一気に噴き出して、ロッカーの扉を思いきり閉めてしまった。
横にいた後輩がびくっと肩を揺らす。
「お先。気をつけて帰れよ」
そう声をかけて更衣室を出る。
後輩には悪いことをしたな、と胸の奥が少しだけ重くなる。
駅へ向かう道は、金曜の夜らしく人が多い。
電車はちょうどいいタイミングで来てくれて、少しだけ運が戻ってきた気がした。
最寄り駅に着き、バス停へ向かう途中で、ふと視界の端にカラオケ屋の看板が入る。
明るいネオンが、今日の嫌なことを全部洗い流してくれそうに見えた。
ストレス発散に、少し歌って帰るか。
そう思って、足をカラオケ店の方へ向けた。
フラフラと歩きながらカラオケ店の前まで来ると、店の前に立っていた店員さんが明るい声で「カラオケどうですか?」と声をかけてきた。
「一人だけどいいの?」と返すと、店員さんはにこっと笑って「大丈夫ですよー」と言う。
「ならお願いしようかな」
そう言うと、店員さんは「ありがとうございます。こちらへどうぞ」と軽く会釈して受付へ案内してくれた。
金曜日の夜だけあって、店内はそれなりに混んでいる。
ざわざわとした声と、遠くの部屋から漏れる歌声が重なって、独特の賑やかさがある。
受付を済ませて案内されたのは角部屋だった。
少し狭いけれど、一人で歌うにはむしろちょうどいい広さだ。
飲み物だけ注文して、まずはロック系の曲を入れる。
今日一日のストレスを全部ぶつけるように声を張り上げると、スピーカーが音を拾いきれずに少し割れたような感じになり、慌ててマイクの音量を下げた。




