ゲレンデ帰りに1
会社の先輩に誘われて行ったスノーボードの日。
まだ空が薄い灰色をしている時間にゲレンデへ着いた。
駐車場には、早朝特有の静けさがあった。
雪を踏む音だけがやけに大きく響く。
案内係のおじさんは、白い息を吐きながら
「おはようさん」と軽く会釈して、
指定の区画を指さした。
エンジンを切ると、車内の暖かさが一気に恋しくなる。
それでも、先に着替えておいたほうが楽だと思い、
ドアを開けた瞬間、冷たい風が頬を刺した。
「……寒っ」
思わず声が漏れる。
リアゲートを開けると、積もった雪の反射で中がやけに明るく見えた。
カバンからウェア、サポーター、ネックウォーマーを取り出し、順番に身につけていく。
外での着替えには慣れているつもりだったけど、やっぱり冬のゲレンデは別格だ。
指先がじんじんして、ウェアのジッパーを上げるだけで少し手間取った。
着替え終わる頃には、体の芯まで冷え込んでいた。
温めるために軽くストレッチを始める。
太ももの裏を伸ばすと、筋がゆっくりと伸びていく感覚が心地いい。
深呼吸をすると、冷たい空気が肺の奥まで入り込んで、一瞬だけ胸がキュッと締まった。
そのとき、車の中に放り込んでいたスマホが震えた。
画面を見ると、先輩からのメッセージ。
「おぅ、今着いたけどお前どこおんねん?
着替え終わったらセンターハウス前来いよ」
相変わらずの短文。
でも、これくらいの距離感がちょうどいい。
『到着して着替え終わったので、すぐ向かいます』
そう返信して、ヘルメットをかぶり、ブーツの締まりをしっかり確認する。
手袋をつけて、ボードを片手に持つ。
リアゲートを閉めると、金属が冷えているせいか、いつもより少し重い音がした。
鍵をかけて、息を白く吐きながらセンターハウスへ向かう。
雪を踏むたびに、ギュッ、ギュッと乾いた音が足元で弾ける。
あんまり待たせると、先輩の機嫌が悪くなる。
それが分かっているから、自然と歩幅が少しだけ速くなった。




