四本の木3
古民家なのだろうが、しっかりと手が入れられているようで、縁側も廊下も木の色が柔らかく、光をよく吸っていた。
歩くたびに床板がかすかに鳴る。その音が、家の呼吸みたいに感じられる。
縁側を通って奥の部屋へ向かう途中、庭の方からふわりと甘い香りが漂ってきた。
爽やかで、どこか懐かしいような香りだ。
思わず足を止めて庭を見る。
黄色い実をつけた木が一本、冬の光を受けて丸く輝いていた。
葉の影が縁側に揺れて、静かな午後の空気にゆっくり溶けていく。
「柚子の木が植わってるの珍しいな」
そう声をかけると、彼は振り返りもせずに、
「おぅ、珍しいやろ?」
とだけ言って、軽い足取りのまま前を歩いていく。
その背中が昔と変わらなくて、思わず小さく笑ってしまった。
居間に通されると、こたつの天板が陽に照らされて温かそうだった。
座るよう促され、腰を下ろすと、畳の匂いがふっと立ち上がる。
しばらくして、奥さんがお茶を運んできてくれた。
湯気の立つ湯呑みを前に置いてくれて、友人夫婦が向かいに腰を下ろす。
二人とも、どこか落ち着かないような、でも嬉しそうな顔をしている。
「で?急に呼び出したのはなんでなんや?」
そう切り出すと、二人は一度お互いの顔を見合わせた。
その間が、妙に夫婦らしくて微笑ましい。
やがて彼が口を開く。
「実はな、この家買う時に条件がいくつかあってな。それがちょっと不思議な話でよ。お前ならなんか見当つくんじゃないかなって、嫁と話してたんだよ」
そう言って、まっすぐこちらを見る。
「いやいや、そんなこと言われても、俺に分かる範囲なんてそんなにないぞ?」
「いやいや、お前は昔からホラーとかオカルトとか好きやし、知識も俺らの中ではある方やったやんけ。なんか答えに行き着く気がするねん」
「いやいや、聞くだけならええけど、答え求められても責任持てんわ」
「まぁ、聞くだけ聞いてみてくれ」
そう言いながら、手を合わせてくる。
昔から、頼みごとをするときだけ妙に素直になるやつだった。
「はぁ……聞くだけならな」
そう答えると、二人ともほっとしたように笑った。
湯呑みから立ち上る湯気が、三人の間にゆっくりと漂っていく。




