四本の木1
繁忙期の仕事をなんとか乗り切った日の帰り道だった。
ゆったりとしたジャズをイヤホンで流しながら、ようやく肩の力が抜けていくのを感じつつ、駅のホームで電車を待っていた。
そのとき、胸ポケットのスマホが小さく震えた。
「ん?誰や……」
取り出して画面を見ると、中学時代の友人の名前が表示されていた。
もう何年も連絡を取っていない相手だ。
ロックを解除すると、短いメッセージがひとつ。
『よう、久しぶり。時間あったら返信くれ』
それだけ。
特に急ぎの用事でもなさそうだし、無視してもよかった。
けれど、久しぶりの名前にちょっと懐かしさが湧いて、指が自然に動いた。
『おぅ、久しぶりやな。珍しいやん』
送るとすぐ既読がついた。
『実はな、家を中古で買ったんだけどよ、ちょっと来ないか?』
いきなり核心に触れてくる。
『いや、いきなりやな。どうした?』
『お前ならなんかわかるかなって思ってな。嫁と話してて、誰か分かる人ならええなってことになったんや』
ますます意味が分からない。
『いや、話見えんのやけど?』
『まぁ、場所送るから週末来てくれへんか? お前、昔から不思議な話とかオカルト好きやろ?』
確かに好きだが、だからといって何か特別な力があるわけでもない。
『まぁ、好きやけど話集めてるだけやし』
『そういうお前やからこそや』
その直後、位置情報が送られてきた。
地図アプリが開き、見知らぬ住宅街のピンが表示される。
『いや、行くとは言うてないぞ?』
『まぁまぁ、来てみてくれ。損はせんと思うぞ』
やけに押してくる。
でも、昔からこういうところはあった気もする。
週末の予定を確認する。
特に用事はない。
メダカのビオトープの手入れくらいだ。
『昼以降なら少しは時間作れるぞ。ただし嫁さんにも許可取れよ? お前よく忘れんねんから』
そう送って、ちょうど入ってきた電車に乗り込む。
車内の揺れに身を任せながら、久しぶりの友人からの連絡に、なんとなく懐かしい気持ちが残った。




