介護施設で2
持ち前の明るい声とテンションのまま、彼女は夜勤中の出来事を語り出す。
「私の働いてる介護施設って、
長期の利用者さんと短期利用の方がいるんですよ〜。で、夜勤の時間に、いつも通りパンツ交換してたら、廊下のほうからね、
『ギィ…よいしょ…ピチャン……ギィ…よいしょ…ピチャン…』
って、人の声と水の音と、押しぐるまの音がしたんですよ〜」
彼女は笑いながら続ける。
「仕事脳だったから、その時は
“やべぇ!誰か漏れてるッッ!”って思って、
急いで廊下に飛び出したんですけど、
誰もいないし、水跡もないしで。
あれ〜?って感じで」
そのまま何事もなく夜勤は終わったらしい。
ただ、帰り道になってふと思い出したという。
「その音が聞こえた場所って、
昔よくショートで泊まりに来てくれてた方の部屋の近くだったんですよね〜。
その方、深夜徘徊してて…川で溺れて亡くなったって聞いたことがあって」
そこまで聞いて、俺は思わず声が出た。
「いや、それ普通に怖いやつやん……」
背筋がすっと冷えるのを感じた。
「そんなことないですよ〜」
彼女はそう言って、まるで大したことじゃないみたいに笑った。
その明るさに、さっきまでの話との温度差が妙におかしくて、俺もつられて笑ってしまう。
「……あっ、お家着きます〜」
少し車の音が混じった声でそう言うと、
「また、なんかあったら話しますね〜」
と、いつもの調子で軽く言い残し、ライブはふっと途切れた。
車内には、さっきまでの明るい声の余韻だけが残っていた。




