介護施設で1
これは、介護施設で働いている友人から聞いた、
ある日の“何でもない旅の話”だ。
その日は遠方での撮影依頼があり、まだ夜の気配が残る時間に家を出た。
前日入りも考えたが、仕事が長引いてしまい、無理に移動するよりは、しっかり寝てから向かったほうが安全だと判断した。
エンジンをかけるとお気に入りのプレイリストからテンポの速いロックが勢いよく流れ出す。
眠気の残る頭に、そのリズムがちょうどいい刺激になってくれる。
高速道路に乗ると、空はまだ薄暗く、遠くの山の輪郭だけがぼんやりと浮かんでいた。
しばらく走っていると、腹がぐぅと鳴った。
そういえば朝飯を食べていなかった。
「これは休憩しろってサインだな」と苦笑しながら近くのパーキングエリアに車を滑り込ませた。
音楽を止めると、車内に静けさが戻る。
外では大型トラックが何台もエンジンをかけたまま停まっていて、その低い振動が地面を伝って足元に響いてくる。
トイレを済ませ、併設のコンビニへ向かった。
そういえば土産を用意していなかったと思い出し、
地元コーナーを眺め、どうせなら少し洒落たものをとラスクを手に取り、会計を済ませる。
車に戻って時間を見ると、待ち合わせまでまだ余裕がある。
シートに体を預け、スマホでSNSを開くと、フォロワーさんが早朝からライブ配信をしていた。
二、三回しか会ったことはないが、一人旅の静けさを紛らわせたくて入ってみると、どうやら夜勤明けの帰り道らしい。
「おはようございます」と声をかけると、
「おはようございます〜、お久しぶりですね〜」と
明るく、少し眠たげな声が返ってきた。
他愛ない話をしているうちに、自然と心霊スポットの話題になった。
お互いに知っている場所を挙げ合いながら、ふと気になって聞いてみた。
「そういや、◯◯さんって怖い体験とかないん?」
すると彼女は少し間を置いてから、
「私ですか〜? あんまりないですね。怖い? 体験かな〜?」
と、首をかしげるような声で返してきた。
エンジンをかけ、スマホをBluetoothに繋ぐ。
さっきまでのロックは止めて、今度はライブ配信の音を車内に流す。
怪談フリークとしては、こういう話題は聞き逃したくない。
ただ、そろそろ出ないと時間的にまずい。
でも、彼女が「怖い?体験かな〜?」なんて言うものだから、思わず笑ってしまった。
「いや、それ絶対なんかあるやつやん」
そう返すと、向こうも笑いながら、
「聞きます〜?」
と、軽い調子で話し始めてくれた。




