内見で4
「収納、床面、水回りはちゃんと見とけよ」
そう言いながら、俺は一度風呂場へ向かった。
換気口、点検口……念のため全部確認する。
風呂のヘリに乗って、ゆっくり点検口を開ける。
中は空っぽだった。
埃も少なく、特に変なところはない。
後輩はテンション高めのまま、
「ここいいっすねー!」
なんて言いながら俺のところに来た。
「おい、もう少しちゃんと見てからにしろ。今日は決めんなよ」
そう釘を刺しつつ、玄関へ向かう。
扉に手をかけた、その瞬間だった。
ゴトッ。
リビングのあたりから、はっきりと音が鳴った。
後輩と顔を見合わせる。
ふたりとも、同じように眉をひそめていた。
靴を脱ぎ直し、もう一度リビングへ戻る。
だが、そこには何もない。
家具もない、伽藍堂の部屋。
風もない。
物が落ちるようなものもない。
音が鳴る理由なんて、どこにもなかった。
とりあえず部屋を出ると、営業さんは先程までのニコニコ顔で待っていた。
さっき聞いた音のせいで、この笑顔が嘘くさく思えた…
「いかがでしたか?
もしよければ、お家賃の方ももう少し勉強させていただきますよ」
後輩は、さっきの音のせいか黙り込んでいる。
さっきまでのテンションが嘘みたいに落ちていた。
俺は営業さんに向き直り、
「とりあえず、間取り図だけ頂けますか?
彼のご両親も見たいでしょうし」
そう伝えると、営業さんは「もちろんです」と笑い、不動産屋へ戻ることになった。
帰りの車内は、3人とも無言だった。
店に戻ると、まるで予め用意していたかのように、
間取り図がすでにカウンターに揃えて置かれていた。
軽く礼を言い、後輩とふたりで駐車場へ向かう。
車の横で、後輩がぽつりとつぶやいた。
「先輩……あの家……」
俺は短く答えた。
「やめとけ。なんかあかん気がする…」
後輩はうつむきながら、
「……そうっすね。もうちょい無理ない程度に家賃上げて、他の不動産屋さんでも探してみるっす。今日はありがとうございました」
テンションの落ちた声に、思わず苦笑しながら肩を軽く叩く。
「いい勉強になったじゃないか」
そう言って、その日はそのまま別れた。
あの家に何があったのかは分からない。
ただ…“何か”は、今もあの部屋にいるのだろう。
日が傾き、空がゆっくりと紅く染まっていく。
その色を眺めながら、ふっと息をついた。
あの帰る前にまで、貼り付けたような笑顔の営業さんが頭から離れなかった…




