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内見で1

昼の休憩時間。

仕事場の食堂は、コーヒーの香りと、揚げ物の残り香がまだ少し漂っていて、ざわざわとした話し声が天井に溜まっていた。

紙コップを両手で包みながらスマホを眺めていると、背後から元気な声が飛んできた。

「先輩、今度家を出て一人暮らしするんですけど、今週末に家見に行くんっすよ。先輩、空いてたら一緒に来てもらえないっすか?」

振り返ると、後輩がにへらっと笑いながら立っていた。

突然すぎて、思わず眉が上がる。

「えっ?急にどうした」

「いや、前に俺の同期の○○が、先輩に内見ついて行ってもらって“めっちゃいい家住めた”って言ってたんで……俺もあやかりたいなぁって」

そう言いながら、手を合わせて拝むみたいに頼み込んでくる。

その必死さに苦笑しつつ、スマホに視線を戻して予定を確認する。

日曜日はぽっかり空いていた。

「……日曜ならいいぞ。ただし昼間だけな。遅くなると仕事に響く」

「マジっすか!助かるっす!ほんまありがとうございます!」

声が少し大きくて、周りの同僚がちらっとこっちを見る。

まあ、嬉しそうだからいいかと思いながら、時間と待ち合わせを決めた。

仕事に戻ると、隣で作業していた別の後輩がこちらを見てくる。

「先輩、また内見行くんすか?」

「お前なぁ……あんまり“先輩に内見ついて行ってもらった”とか言いふらすなよ。休みが消えるんだから」

「すみません……でも、めっちゃいいとこ住めたんでつい……気をつけます」

「頼むわ。内見ばっかり行ってたら、俺の休日なくなるやん」

「まあ、1日仕事になりますもんね」

そんなことを言い合いながら、デスクの上のコーヒーを同時にすすった。

仕事場の空気は相変わらずで、キーボードの音と電話のベルが混ざり合っている。

定時になり、上司に「お疲れ様でした」と挨拶して更衣室へ向かう。

外に出ると、夕闇が街をゆっくりと飲み込んでいくところだった。

街灯がぽつぽつと灯り始め、仕事帰りの人たちが肩を回しながら駅へ向かっていく。

車のライトがアスファルトに反射して、夜が少しずつ形を持ち始める。

日曜日は後輩の内見に付き添う。

ただそれだけの予定。

特別なことは何もない、いつもの日常の続き。

でも、こういう“誰かの節目に立ち会う日”って、

なんとなく記憶に残るんよな…

そんなことをぼんやり思いながら、家路についた。

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