猫の声6
うーん、と唸りながら、俺は少し黙ってしまった。
黙り込んだ俺を見て、彼が慌てたように口を開く。
「この子、その猫ちゃんの供養はしっかりしてるんだよ」
そう言われ、彼女の方を見ると、彼女は静かにうなずいた。
「はい……十二年一緒に暮らしていたので、もう家族だと思ってます。少しお金はかかってしまいましたが、ちゃんと供養しました」
少し潤んだ目は、まだ悲しみが癒えていない証拠だろう。
俺は黙ったまま、今まで聞いてきた猫に関する話を頭の中で並べていく。
飼い主の扱いが悪くて祟る話はよく聞く。
でも今回は声だけ。
しかも供養もしているし、十二年も生きた猫だ。
悲しみのあまりの幻聴なら、彼には聞こえないはず。
恩返しの話もゼロではないが、日に日に声が大きくなるのは違和感がある。
“何か見つけてほしい”のか?
でも伝わらないことで焦っているようにも思える。
……うーん、分からん。
思考を巡らせていると、彼女が不安そうにこちらを見つめてきた。
「あの……何か心当たり、ありますか?」
一度思考を止めて、正直に答える。
「いや、今まで聞いた話と、俺が集めてきた話で類似してるものがないか考えてただけだよ。ただなぁ……猫が鳴く時って、“何か見つけてほしい時”か“祟る時”なんだよ。だから類似がなくてね……分からないなぁ」
すると彼が眉を寄せて聞いてきた。
「見つけてほしい時に鳴くって、どういうことや?」
「ほら、猫って飼い主に何か持ってくることあるだろ? 獲物捕まえた時とか。ああいう時、気付いてもらえないと鳴いて教えるやん。
気付いてもらえてないってことなのか、他に理由があるのか……俺には検討がつかんのよ。そもそも、その猫、俺会ったことないやろ?」
そう言うと、彼女が小さく息を吸い、震える声で言った。
「……よく、捕まえたネズミとかを私の近くに持ってきては鳴いてました。たしかに……その時の声には似ています」
泣くのを堪えているのが分かる。
彼はそんな彼女を抱き寄せながら、俺に“どうなんや?”と目で訴えてくる。
どうやら、ここ最近ずっと彼女が落ち込んでいて、彼も気が気じゃないらしい。
昔から変わらないやつだなと思いながら、俺は口を開いた。
「二人が良かったら、俺、その鳴き声が聞こえる時間まで居ようか? 俺にも聞こえるのかどうか確認したいし、この家のこと知らない俺が入ることで、何か新しい視点が出るかもしれん」
二人とも、驚いたように目を丸くして俺を見た。
どうやら、俺がそこまで言うとは思っていなかったらしい。
顔を見合わせてから、彼女が小さくうなずく。
「予定とか大丈夫なら……聞いてみてほしいです」
彼も続けて言う。
「お前がええなら、俺はかまへんぞ。ただ……大丈夫なんか? 予定とか。無理してまでとは言えんからな」
「大丈夫。今日はのんびりするつもりやったからさ」
そう言うと、彼女は俯きながら申し訳なさそうに言った。
「なんか……悪いですよ……」
「いや、こんな話聞いたら気になるから。ここで帰ったら、俺の方がモヤモヤするやん」
そう言うと、彼が彼女に向かって笑いながら言った。
「こいつ、昔からこんな感じなんや。ほんまにアカン時は“無理”って言うから、甘えよう」
その様子を見て、俺はふと思う。
あんまり家にいられたくないのかな、と。
そこで彼に向かって言った。
「一度、家に送ってくれ。ちょっとパソコンに入ってるデータから調べてみるから」
「お、おぅ」
少し驚いた声で返事が返ってくる。
「ちなみに、鳴き声って何時くらいなん?」
「だいたい……24時前後やな」
「なら、俺はその前くらいに戻ってくるわ。二人の時間を邪魔するのも無粋やろ?」
そう言って笑ってやると、彼は苦笑しながら頭をかいた。




