猫の声5
「先に言っとくけど、俺ができることは聞くことだけだぞ。お前なら知ってると思うけど、解決できるわけじゃないし、聞いたからって俺が何かできるわけじゃないからな」
そう念を押すと、彼はすぐにうなずいた。
「もちろん知ってる。彼女にもそれは話してあるから」
彼女も続けて、落ち着いた声で言う。
「えぇ、彼からその話は聞いてます。ちょっとよく分からない話なので……聞いてもらえるだけでも助かります」
ふたりの返事を聞いて、俺は軽く息を吐いた。
「なら、大丈夫かな」
そう言うと、ふたりはほっとしたように顔を見合わせた。
「で? どんな話?」
促すと、彼が少し姿勢を正して話し始めた。
「実はな、この子、1ヶ月前に飼い猫が老衰で亡くなってな……。で、2週間くらい経った頃からかな? 毎晩、猫の鳴き声が家の中で聞こえるって言ってて。二人で家中探し回ったんだけど、見つからないんだよ」
彼女も小さくうなずきながら続ける。
「そうなんです。飼い猫の声で鳴いてるので、何かあるのかもと思って……家中探し回ったんですけど、見つからなくて。しかも……日に日に声が大きくなっていって……」
そこまで言うと、彼女は視線を落とし、膝の上で指をぎゅっと握った。
彼がそっと肩を抱き寄せ、労わるように背中を撫でる。
「心配になってな。めっちゃ可愛がってたから、一瞬“幻聴かな”とも思ったんだけど……俺にも聞こえるんだよ」
そう言って、彼はまっすぐな目でこちらを見てきた。
俺は指先を軽く合わせ、少し考える。
ふむ……二人に聞こえて、でも家の中には猫はいない。
“家中探した”と言っていたが、どれくらいの範囲なんだ?
「家中って、どれくらいの範囲で探したの?」
そう尋ねると、彼が答えた。
「天井裏から家の中全体だな」
「床下は?」
そう聞くと、彼は少し困ったように眉を寄せた。
「実はこの家、基礎部分どこも入れるところがないんだよ。コンクリート基礎で、通気口は格子状の金属板みたいなのがはまってて……2センチくらいの隙間が並んでるだけなんだ」
「そうなのか。なら、床下は見てない感じか?」
「そうだな。床下は覗いてない。というか……覗けるところがないんだよ」
彼の言葉に、俺は小さくうなずいた。
床下に入れない構造。
天井裏も確認済み。
家の中にもいない。
それでも“二人に聞こえる鳴き声”。




