猫の声4
簡単に自己紹介を始めた。
「俺は、彼の古い友人で……今日は何故か呼ばれました」
軽く笑いながらそう言うと、彼女は一度こちらを見てから、すぐに彼の方へ視線を向けた。
「なんで? 何も言わずに来てもらってるの?」
声は柔らかいのに、言葉の端にしっかりとした圧がある。
彼はその視線を受けて、明らかに肩をすくめた。
「いや、あのな……変な先入観とか持たせずに聞いてもらった方がいいだろ?」
焦ったように言い訳しながら、胸元のあたりで両手を上げ、“ちょっと待ってくれ”とでも言いたげに手のひらを彼女へ向ける。
そのまま、助けを求めるようにこちらへ視線を投げてきた。
まるで、
「な? 俺、悪くないよな?」
と無言で訴えてくる子どものようで、思わず笑いそうになる。
くっくっと笑いながら、
「とりあえず、イチャイチャしてるところ悪いけど……お話し聞いても?」
そう言うと、彼女さんははっとしたようにこちらを見て、
少し頬を赤らめながら「すみません……」と小さな声で頭を下げた。
さっきまでの“責める空気”は、すっと霧が晴れるみたいに消えていった。
一方で彼は、ふぅ……と胸を撫で下ろしている。
その安堵の仕方が妙に芝居がかっていて、ちょっとイラッとしたので、
「で、早く彼女を紹介してくれるかな?」
と、目が笑っていない笑顔で言ってやる。
彼は頬を引きつらせながら、
「……彼女は、半年前から付き合ってるんだ」
と、ようやく紹介らしい紹介をした。
ひとまず場が落ち着いたところで、改めて本題に切り込む。
「で、今日呼ばれたのはなんで?」
その問いに、ふたりは一度顔を見合わせ、小さく頷き合ってから、彼の方が口を開いた。
「実はな……お前にしか話せんかもと思ってな。
お前、趣味で怪談とか集めてたやろ? だからな……」
そこで彼は言葉を切り、コーヒーの湯気の向こうで、少しだけ真剣な表情になった。
彼女も、膝の上で指をそっと組み直し、こちらを見る目がさっきよりも慎重になっている。
どうやら、“怪談好きの友人”として呼ばれたのは間違いないらしい。




