猫の声3
駐車場に車を停めて降りると、彼の案内で一軒家へ向かった。
落ち着いた住宅街の中にある、清潔感のある家だ。
インターホンを押すと、すぐに明るい声が返ってきた。
「はーい、すぐ開けるから待ってね」
奥の方で軽い足音がして、ガチャッと鍵の回る音とともに扉が開く。
現れたのは、肩口で切り揃えられた栗色の髪に、くりっとした目が印象的な女性だった。
部屋着とはいえ、上下揃いの落ち着いた色味のセットアップで、きちんと感がある。
休日の朝でもきちんと身だしなみを整えるタイプなのが一目で分かった。
彼が軽く顎でこちらを示しながら言う。
「昨日話してたツレがこいつだよ」
あまりに簡単な紹介に少し笑いそうになりながら、丁寧に頭を下げる。
「初めまして。朝早くにすみません、彼の友人です。よかったら、これどうぞ」
そう言って、コンビニで買ったクッキーの詰め合わせを差し出した。
彼女は一瞬、目を大きく見開いた。
「えっ……すみません、なんか気を使わせたみたいで」
そう言いながらも、両手で丁寧に受け取ってくれる。
そのまま玄関の方へ身を引き、
「玄関先ではなんですので、どうぞ入ってください」
と、柔らかい笑顔で中へ招き入れてくれた。
リビングに通されると、部屋はきちんと片付いていた。
棚の上には、彼との写真や小さな雑貨が整然と並んでいて、生活の丁寧さがそのまま空間に滲んでいる。
「とりあえず、テーブルへどうぞ」
そう促され、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろす。
彼は向かい側に座り、いつもの調子で背もたれに軽く寄りかかっていた。
しばらくすると、キッチンからコーヒーの香りがふわりと漂ってくる。
振り向くと、彼女がマグカップを三つ、砂糖とフレッシュをのせたお盆を両手でしっかり支えながらこちらへ向かってきていた。
「どうぞ、熱いので気をつけてくださいね」
そう言って、彼の横に腰を下ろし、丁寧にマグカップをテーブルへ置いてくれる。
湯気が立ち上り、部屋の空気が少しだけ柔らかくなる。
彼はコーヒーを受け取りながら、ちらりとこちらを見て笑った。
その笑みには、これから話す“相談”の前置きのような、少しだけ含みのある気配があった。




