平日のお休みに2
彼の家までは、車で十分ちょっと。
昼の陽射しがフロントガラスにじんわり当たって、車内の温度が少しだけ上がっていくのを感じながら走った。
アパートの駐車場に入ると、いつもより空いていて、好きな場所にすっと停められた。
エンジンを切ってふっと息をつくと、前方に見慣れた姿が立っているのに気づいた。
アパートの入り口前。
部屋着のTシャツに、膝が出るくらいの短パン。
サンダルをペタペタ鳴らしながら、こっちを見てニヤニヤしている。
“ほんまに待っとるやん”と思わず笑ってしまう。
車から降りると、彼は待ちきれんと言わんばかりの勢いで近づいてきて
「よう、思ったより早かったな」
と言いながら拳を突き出してきた。
その拳は、外に出ていたせいか少しだけ温かくて、いつも通りの力加減でコツンと当たる。
「おぅ、平日の昼間やし、すいてたわ」
そう返すと、彼は満足そうに頷いた。
車のロックを押すと、ピッという軽い音が駐車場に響く。
その間も彼は落ち着きなく体を揺らしながら、
「はよ来いや、はよ。見せたいもんあんねん」
と、子どもみたいに急かしてくる。
「そんな焦らんでも逃げへんやろ」
と言いながらも、彼のテンションの高さにつられて、自分の足取りも自然と早くなる。
アパートの階段を上がる彼の背中は、部屋着のくせに妙に軽快で、サンダルの音が階段に小さく反響していた。
ガチャ、と鍵の外れる乾いた音がして、
「入ってくれ」
と彼が軽く顎で合図しながら扉を開けた。
玄関に一歩入ると、外より少しひんやりした空気が足元にまとわりつく。
靴を脱いで上がると、一人暮らしには少し広めのリビングが奥に広がっていた。
生活感はあるのに散らかってはいなくて、
“ああ、こいつらしいな”と思う。
「とりあえず座ってくれ。コーヒーでええか?」
キッチンに向かいながら、振り返りもせずにそう言う。
「おぅ、遠慮なくもらうわ」
ソファに腰を下ろすと、彼が棚から豆の袋を取り出して、慣れた手つきでミルに流し込むのが見えた。
「お前ブラックやんな?」
そう言いながら、ガリガリと豆を挽く音が部屋に広がる。
その音に混じって、挽きたてのコーヒーの香ばしい匂いがふわっと鼻に届いた。
“相変わらず凝り性やな…”
豆の種類も、挽き方も、淹れ方も、全部こだわり抜くタイプなのを思い出して、少し笑ってしまう。
ケトルの湯が静かに沸き始める音を聞きながら、俺はソファに深く座り直し、彼が何を見せようとしているのか、その前のこの“いつもの時間”をゆっくり味わうことにした。




