美容室でのこと6
「そういやさ、お前モテてるけど、昔泣かした女とかじゃないんか?」
なんとなく思いついて問いかけると、彼は箸を置いて少し考え込んだ。
「モテる言うても、そんなにやぞ?だいたい深い仲になったら一途やし……泣かされたことはあっても、泣かしたことはないわ」
思い返すように天井を見上げながら言う。
たしかに、昔から彼が浮気したとか、そういう話は一度も聞いたことがない。
「酷い振り方したとかないんか?」
「いや、だいたいすっぱり別れるし、お互い話し合いして別れるで」
「彼女じゃなくてさ。告白してきた相手とかを酷い振り方したとかは?」
「うーん……ないなぁ。そもそも告白自体そんなされんし」
「そうなん?」
「おぅ。だいたい俺から告白するしな」
「そうか」
そう言いながら、俺は少し考え込んだが、すぐに思考を止めて話題を切り替えた。
「とりあえず混んできたし、店出るか?」
「せやな。長話しても迷惑やしな」
会計を済ませて店を出る。
夜の空気は少し冷えていて、油の匂いが服にうっすら残っている。
車に乗り込み、エンジンをかける。
彼を家に送ろうかと思ったところで、ふと頭に浮かんだ。
そういや、彼の家の近くに神社あったな。
なんとなく、その場所が気になった。
「ちょい寄り道するで」
そうだけ伝えて、車を神社の方へ向けた。
神社までの数分、車内には特に変わったこともなく、
道路の街灯がフロントガラスを一定のリズムで流れていくだけだった。
ふと思い出して、俺は口を開いた。
「そういやさ、前はよく神社に通ってたみたいやけど……最近はどうなん?」
彼は窓の外を見たまま、少し間を置いてから答えた。
「そういや……あの、よくわからんこと起きてからは、一度も行ってないなぁ……なんか足が向かんというか……今言われるまで、全然頭になかったわ」
「そうか。なら、ついでに寄ってこうや」
「……まぁ……ええけど……」
返事は肯定なのに、どこか歯切れが悪い。
言葉の端に、迷いとも疲れともつかないものが混ざっていた。




