美容室でのこと5
「そんでな……それからやねん。あの女性のお客さんカットした日は、必ずと言っていいほど髪が利き腕に刺さるねん」
彼は箸を置き、右手の甲をじっと見つめる。
「まぁ、初めは気のせいや思ってたんよ。美容師の職業病みたいなもんやしな。
でもな……今日お前切って気付いたんやけど、お前の髪切ってる時は刺さらんかったんよな。
いつもなら、お前の髪短くカットしたらちょこちょこ刺さるのにさ」
「女性のお客さんだけなんか?刺さるの?
他にもなんか起きてんか?」
そう聞くと、彼は少し息を吐いてから続けた。
「実は家でもな……変なこと起きてんねん。風呂に湯ためて入ろう思ったら、長い黒髪が2、3本浮いてたりな。酷い時は排水口に絡まってたりしてるわ。そんなこと、今まで一回も無かったのにな……」
言いながら、彼は右肩を軽く回し、さする。
「あと、やたら右肩が凝るねんなぁ……
寝違えたんか思うてたけど、ずっと治らんねん」
「それは……たしかに普通に聞いたら与太話か、精神的に疲れてるか疑われるやろな」
「せやろ?だから誰にも言えんかってん。正直、お前から連絡来て、指名入った時はめっちゃホッとしてん」
「俺が予定悪かったらどうするつもりやったんや?」
「別の日でも、その場で約束できるやろ?」
「まぁ、そうやな」
そこまで話し終えると、彼はようやく肩の力が抜けたように、頼んでいたラーメンに箸を伸ばした。
俺も青椒肉絲を口に運ぶ。
しばらくは、ふたりして黙々と食べるだけの時間が流れた。
食べ終わる頃には、どちらともなく「ふぅ……」と息が漏れ、腹を軽く擦りながら一息ついた。




