美容室でのこと4
「あっ、でも、俺は聞くだけやぞ? 解決とかお祓いとかは無理やからな」
そう言うと、彼はグラスを指でくるくる回しながら、
「わかっとるよ。でも聞いてもらえるだけでも楽になるしな。お前なら何かしら対策も持ってそうやし。怖がりな癖に集めてんやからさ」
少し無理して笑ってるのが分かる。
俺は苦笑で返しつつ、目で続きを促した。
「実はな、女性のお客さんなんやけどよ。
初めての来店で、何故か俺指名で来てな。
同僚と“珍しいなぁ”言うてたんよ。普通、指名なんて何回か来たお客さんがすることやからさ」
「せやな。でも、前に働いてた時のお客さんとかって可能性もあるやろ?」
「まぁな。でも完全に初見やったんよ」
彼は箸を置き、少し身を乗り出す。
「でな、不思議なんやけど……そのお客さん来店されてから、天井の電気が一瞬パチッて消えたような、変な挙動してな。まぁ、たまにあるやん?って思って、とりあえず席ついてもらってカット始めたんやけど……ずっとニヤけてるねん、しかもな鏡越しに目が合ったと思ったら、次の瞬間もう視線が戻ってんねん」
「髪切ってもらってニヤけてるのは珍しいし、気持ち悪いな」
「せやねん。でな、話しかけても小さい声で“はい”とか“そうですね”とかの相槌しか返ってこんしさ。
なんか距離感つかまれへんくて困ってもうたわ」
そこで彼は頼んでいたラーメンを啜り始めた。
湯気が立ち上り、スープの匂いがふわっと広がる。
「指名してきて、そんな感じなんは……照れなんか、人見知りか……でもそれやったら指名してこんよな?不思議な話やな」
俺も青椒肉絲を小皿に取り分けながら返す。
「せやろ?
……それだけで終われば良かったんやけどな」
彼は箸を止め、少しだけ視線を落とした。




