芯のない香り2
ガタンゴトンと規則正しい音を響かせながら、電車は次の駅へ向かって進んでいく。
一度気になり始めると、頭から離れない。
さっきから漂ってくるお香のような甘い香りだ。
自分の服や手首に鼻を寄せてみるが、特にそんな匂いはしない。
むしろ、さっきより強くなっている気がする。
だが周りの乗客は誰ひとり気にしていないようで、同じように匂いを確かめる仕草をする人もいない。
隣の男性が、こちらを訝しげに横目で見ていた。
変な動きをしていた自覚はある。
疲れているのかもしれない、と自分に言い聞かせるように目を閉じた。
オープンイヤーのイヤホンからは、相変わらず軽快な音楽が流れている。
けれど、さっきまで身体に馴染んでいたリズムが、今はまったく頭に入ってこない。
乗り継ぎ駅に到着し、降りるために扉のほうへ身体を向ける。
外はすでに暗くなりかけていて、扉のガラスには自分の顔がぼんやり映っていた。
そのとき、不意に鼻を刺す甘い香りが、一瞬だけ濃くなり、耳元で声がした。
私の匂いがわかるのね。
え、と反射的に目を開けた瞬間、扉の窓に映る自分の横に、髪の長い女性の姿が一瞬だけ見えた。
こちらを見つめ、口角だけをゆっくり持ち上げたような、気味の悪い笑み。
心臓が跳ね、思わず後ずさる。
扉が開くと同時に駅へ飛び降り、ホームの端へ向かって人混みをかき分けるように歩いた。
息が荒い。
背中に冷たい汗が流れる。
まだ、あの香りが残っていた……。




