ゲレンデへの道中で3
道中は快調そのものだった。
高速道路の長いトンネルを抜けた瞬間、視界が一気に真っ白に染まる。
一面の銀世界。
思わず「ヒュー」と声が漏れた。
「ゲレンデ、めっちゃ良さそうやん」
そんな期待を胸に、ハンドルを握る手に少し力が入る。
とはいえ雪道だ。
安全運転で先を急ぐ。
コーヒーをがぶ飲みしたせいか、急にトイレに行きたくなった。
ちょうどパーキングエリアの看板が見えたので、そのまま車を滑り込ませる。
駐車場には一台も車がない。
まだ早朝だからだろう。
静かすぎて、雪の白さが余計に際立つ。
トイレへそそくさと向かう。
間に合った。
ほっと息が漏れる。
手を洗おうと洗面台へ向かい、蛇口をひねる。
冷たい水が指先を走る。
その瞬間、ふと背中に強烈な視線を感じた。
手元に視線を落としたまま、目の前の鏡が冷たい光を放っているのがわかる。
顔を上げてはいけない。
なぜかそう思った。
息を殺し、目を伏せたままトイレを出る。
そのとき、右耳のすぐ側で
「チッ」
と舌打ちのような音がした。
心臓が跳ねた。
振り返るなんて無理だった。
そのまま駆け足で車に戻り、ドアを閉めると同時にエンジンをかける。
トイレ側は怖くて見られない。
ただ前だけを見て、アクセルを踏む。
「あれ……なんやったんや……」
冷や汗が首筋を伝う。
振り返っていたらどうなっていたのか。
そんな考えが頭をよぎる。
誰も停めていないパーキングを後にしながら、ハンドルを握る手に力が入ったままだった。
あの日以来、鏡の前で無意識に目を伏せる癖がついてしまった…




