温泉で4
まずは洗い場で体を洗い、頭から湯気が立つほどしっかり温める。
かけ湯をしてから内湯に入ると、じんわりとした熱が肌の表面からゆっくり染み込んでくる。
朝の時間に入る温泉は、どうしてこんなに贅沢なんだろう。
肩まで沈めると、思わず「はぁ〜」と声が漏れた。
仕事の疲れや、ここ数日の細かいストレスが、湯の中でふわっと溶けていくような心地よさがある。
十五分ほど浸かって体の芯まで温まったところで、よし、露天風呂へ行くか、と湯船から上がる。
外へ続く扉は温度差で結露がびっしりついていて、手で押し開けると、ヒヤッとした空気が火照った体に刺さる。
その冷たさが逆に気持ちいい。
かけ湯をして露天風呂に入ると、顔だけが冷えて、体はしっかり温かい。
雪がチラつく空を見上げながら、「いい風情だな」とぼんやり思う。
湯気と雪が混ざり合って、世界がゆっくり溶けていくような静けさがあった。
その時だった。
「兄ちゃんみてぇな若い子が、雪見風呂とはなかなか渋い趣味してんな」
いきなり声をかけられて、思わず肩が跳ねた。
え、こんな近くに人いたっけ?
さっきまで気配なんて全然なかったのに。
戸惑いながらも返す。
「えぇ、朝からSNSでここの温泉の動画が出てきまして。 今日なら寒波で人も少ないし、いいタイミングかなと思って」
「なかなかオモロい視点持っとるやん。おもろいな兄ちゃん」
そう言いながら、そいつはゆっくりこちらに近づいてくる。
湯気の向こうから現れるその姿は、どこか地元の人特有の落ち着きがあった。
温泉で知らない人と話すのも、旅先の楽しみ方のひとつだ。
面白い話が聞けることもあるし、ひとりでぼーっとするだけじゃもったいない。
そう思って、他愛ない会話を続けた。
話しているうちに、どうやら本当にこの辺りの地元の人らしい。




