マンションで2
朝勤務だったので、夕方の仕事終わりは道がやけに空いていた。
帰宅ラッシュにはまだ早い時間帯で、車の流れもゆっくりしている。
マンションに着き、いつもの場所に車を停める。
エンジンを切ると、さっきまで車内に満ちていた低い振動がすっと消えて、代わりに外の空気の静けさが耳に入ってきた。
オートロックの鍵をかざして、重い扉を押し開ける。
エントランスに入ると、外より少しひんやりした空気が肌に触れた。
この温度差が、なんとなく“帰ってきた”感じを思い出させる。
エレベーターに向かう途中で、実家の郵便受けを軽く確認する。
チラシが数枚入っているだけで、特に変わったものはなかった。
エレベーターが到着するまでの数秒、エントランスの静けさと、外から入ってくる夕方の光が混ざる。
あの時間帯特有の、少しだけ疲れが抜けるような空気。
エレベーターが開き、乗り込んで閉ボタンを押そうとした瞬間、ガラス越しに年配の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
慌てて開ボタンを押す。
「ありがとうね」
「いえいえ。○○さん、お久しぶりです」
「あら、元気にしてた?」
「はい」
そんな短いやり取りをしているうちに、○○さんの階に到着した。
扉が開き、降りていく背中が見える。
そのまま行くのかと思ったら、一度だけ振り返って、
「頑張ってね」
と、柔らかく言われた。
「ありがとうございます」
自然とそう返して、扉が閉まるのを見送る。
エレベーターは再び動き出し、実家の階へとゆっくり上がっていった。




