昼休憩に2
昼からの仕事に戻る頃には、さっきの無言電話のことなんて、頭の隅からすっかり消えていた。
午後の空気はどこか重たく蛍光灯の白さがやけに目に刺さる。
仕事を終え、日報を入力してパソコンを落とす。
椅子を引く音がフロアに響き、その音に合わせるように気持ちがふっと緩んだ。
上司に「お疲れ様でした」と挨拶し、同僚と並んで更衣室へ向かう。
廊下の空調の風が昼間より少し冷たく感じた。
更衣室に入ると、同僚がニヤニヤしながら言ってきた。
「無言電話、またかかってきてないんか?」
「来てないですねぇ」
そう返しながら、作業着を脱いで私服に着替える。
金属製のロッカーがカン、と鳴り、その音が妙に響いた。
「夜中にかかってきたら嫌やなぁ」
同僚が笑いながら言う。
「それほんまに嫌なんで、やめてくださいよ」
そう笑って返し、お互いにロッカーを閉めて更衣室を出た。
外に出ると、夕闇がじわじわと街を飲み込んでいく時間帯だった。
空は群青色に沈みかけ街灯がぽつぽつと灯り始めている。
駅までの道を、てくてくと歩く。
一日の疲れが足に溜まっていて、歩幅が自然とゆっくりになる。
駅の看板が見え始めた頃、胸ポケットが震えた。
「……ん?」
取り出して画面を見る。
昼の番号。
「またかよ……」
無視しようとしたが、さすがに二度目となると腹が立ってきて、一言文句を言ってやろうと思い、通話ボタンを押した。
あえて、こちらからは何も言わず、無言のまま耳に当てる。
向こうも無言。
風の音も、呼吸も、衣擦れすらない。
ただ、沈黙だけが続く。
こちらも黙ったまま、スマホを耳に当てて数分。
その“数分”が、やけに長く感じた。
やがて、
ブツッ。
短い、乾いた音だけ残して通話が切れた。
「……なんだったんだ?」
胸の奥にざらついた違和感だけが残る。
気づけば、電車を一本逃していた。
駅のホームに向かう足取りが、さっきより少しだけ重くなっていた。




