昼休憩に1
仕事の昼休憩時間に、無性に甘いコーヒーが飲みたくなった。
普段ならブラックで済ませるのに、今日はやけに砂糖の味が欲しい。
理由は分からんが、こういう時は逆らわない方がいい。
チャリチャリと小銭を手の中で転がしながら、事務所前の自販機へ向かう。
昼の空気は少し湿っていて、遠くで誰かが笑っている声が風に混じって聞こえた。
目当てのコーヒーのボタンを押すと、ガコンッ、と腹に響くような音を立てて缶が落ちてくる。
その金属音が、やけに大きく感じた。
缶を拾い上げ、「さて戻るか」と踵を返した瞬間、胸ポケットのスマホが震えた。
画面を見ると、知らない番号。
「……誰や?」
出るか迷ったが、週末に予約した宿の番号かもしれんと思い、通話ボタンを押す。
「もしもし」
返事はない。
ただ、静か。
「もしもーし」
もう一度声をかけても、沈黙が続く。
「すみません、お声が聞こえませんが……どなたですか?」
やっぱり無言。
昼休憩の貴重な時間にこんな電話、胸糞悪い。
そう思いながら通話を切った。
「ちぇっ」
舌打ちして休憩所へ戻る。
缶コーヒーを開けると、甘い匂いがふわっと立ち上がった。
同僚たちと他愛ない話をしながら、さっきの無言電話のことを話す。
同僚は笑いながら言った。
「お前、怪談とか集めてるから向こうから連絡来たんじゃねぇの?」
周りにいた上司まで笑い出し、俺もつられて笑った。
ただ、胸の奥に、さっきの“沈黙”だけが妙に残っていた。




