旧友からのメッセージ8
そちらを見ると、黒い髪を肩口で切りそろえた可愛らしい女性と、その横で心配そうに眉を寄せている少し年配の女性が立っていた。
車の中で待つのも失礼かと思い、俺も降りて軽く頭を下げる。
「娘さんをお預かりいたします」
そう言うと、お義母さんは胸の前で手を握りしめたまま、不安そうに「お願いします……」と返してきた。
とりあえず二人を後部座席に座らせる。
ドアを閉める前、さりげなくチャイルドロックをかけた。
何が起きても、外からしか開けられないように。
エンジンをかけ、車を走らせる。
「どこへ行くの?」
後部座席から、彼女が不安そうに聞いてくる。
その声はまだ普通の、若い女性の声だった。
「彼の一押しの場所らしいよ」
彼が俺を指さしながら、できるだけ柔らかい声で言う。
彼女は小さく頷いたが、それ以上は何も言わなかった。
簡単に挨拶を交わしながら走る。
だが、神社が近づくにつれ、後部座席の彼女の口数が目に見えて減っていく。
最初は短い返事が返ってきていたが、やがてそれも途切れがちになり、最後には完全に黙り込んでしまった。
ミラー越しに見ると、彼女は俯いたまま、肩が小刻みに震えている。
俺は努めて明るい声で、
「いつから付き合ってんの?」
「どっちから告白したん?」
などと適当に話題を振るが、返事はもう返ってこなかった。
横で彼が焦ったように彼女の肩に触れようとするが、 触れる前に俺が小さく首を振ると、彼は唇を噛んで手を引っ込めた。
神社の鳥居が見えてきた頃、彼女は突然、ガタッと音を立てて身を乗り出した。
後部座席のドアに手をかけ、開けようとする。
だが、チャイルドロックがかかっているため、内側からは開かない。
「……クソがっ」
その声は、明らかに彼女のものではなかった。
低く、濁っていて、喉の奥で何かが擦れるような声。
「何が“一押し”だ……騙しやがったな……
くそ……くそ……くそ……!」
後部座席で暴れ出し、シートが軋む音が車内に響く。
彼は青ざめて「おい、やめろって……!」と叫ぶが、
彼女は聞いていない。
とりあえず駐車場へ向かおうとすると、境内の入口に立っていた巫女さんが静かに手を上げて合図をした。
そして、車のお祓い用の奥の道を指さす。
俺は頷き、そのまま車をゆっくりと進めた。
境内の裏手へ回り込むと、そこには宮司さんがまるで待ち構えていたかのように立っていた。
白い装束のまま、こちらをじっと見つめている。
その表情は、“来るのを知っていた”と言わんばかりの静けさだった。




