旧友からのメッセージ5
「それから毎日そんな感じで困ってるねん……」
彼は両手で頭を抱えたまま、テーブルに肘をついた。
声は弱々しく、疲れがそのまま滲んでいる。
「お義母さんからは“何があったん?”って言われるし“薬でもやらせたんか?”とか、あらぬ疑いかけられるしで……夜だけおかしくなるらしいねん……」
その“夜だけ”という言葉に、胸の奥がざわつく。
俺の中で、いくつか心当たりが浮かんでいた。
「生肉って……全部鶏肉なんか?」
そう聞くと、彼は即答した。
「そうらしい。何食べたいって聞いたら、雀の焼き鳥とか言うらしいわ……」
「雀……?」
「せやねん。で、たまにつま先立ちで歩いたりも出てるしで…もうめっちゃ困ってるねんけど、こんな話、誰も真剣には聞いてくれへんやろ?」
そう言いながら、縋るような目でこちらを見てくる。
その目に、冗談の色は一切なかった。
「そやなぁ……荒唐無稽な話に聞こえるからなぁ……」
そう返しつつ、心の中では“これは俺の手に負えない話では?”という思いが強くなっていた。
その気配が伝わったのか、彼はさらに前のめりになって言う。
「どうにかならんか?解決策でなくてもええ。なんか知らんか?」
俺は深くため息をつき、確認するように聞いた。
「明日、お前も、なぁ……彼女も予定は?」
「大丈夫なはず……お義母さんが家から出してくれれば、やけど……」
「わかった。ちょっと席外すけど、その間にお義母さんに許可取れ」
そう言って席を立ち、店の外に出る。
夜風が少し冷たくて、頭が冴える。
スマホを取り出し、電話帳をスクロールする。
お目当ての番号を押すと、コール音が一度鳴っただけで繋がった。
「○○神社です」
若い女性の声。
遅い時間なのに、妙に張りのある声だった。
「遅い時間にすみません。△△と申します」
名前を名乗っただけで、
「宮司ですね。少々お待ちください」
と返ってきた。
あれ?
用件、まだ言ってないよな?
そう思う間もなく、電話口が切り替わる。
「こんばんは。今回はどうされましたか?」
いつもの宮司さんの声だ。
事情を簡潔に話すと、しばらく沈黙が続いた。
そして、低く、はっきりとした声で言われた。
「貴方が二人を連れて、明日うちまで来なさい。
どんなに嫌がっても、ですよ」
そう言うと、宮司さんは一方的に電話を切った。
「……あれ?」
胸の奥に、言いようのない違和感が残る。
だが、今はそれを考えている場合ではない。
店に戻ると、友人が電話を耳に当てたまま、何度も何度も頭を下げていた。
どうやら難航しているらしい。
“まぁ、娘さんのことやしな……”
そう思いながら席に近づくと、彼はこちらに気づき、
申し訳なさそうに頭を下げてきた。
許可取りが相当難しいのだろう。
「俺、電話変わろうか?」
そう声をかけると、彼は電話口から少し顔を離し、
「事情説明するわ……」
と言って、お義母さんに向けて、ゆっくり、丁寧に、事情を話し始めた。




