喫茶店にて13
巫女さんに「お疲れ様です」と声をかけると、
彼女は竹箒を軽く持ち直しながら、にっこり笑った。
「お疲れ様です。……また、巻き込まれましたか?」
その言い方があまりにも自然で、思わず苦笑してしまう。
「まぁ、性分なので」
そう返すと、巫女さんは少し肩をすくめて言った。
「宮司さんから、境内の掃除をさせなさいと言われております。一緒にやりましょう」
そうして、俺たちは並んで境内の掃き掃除を始めた。
雑談はしているが、手は抜けない。
落ち葉の多い時期だ。
箒を動かせばすぐにひとかたまりになる。
それをまとめて落ち葉置き場に運び、また戻って掃く。
その繰り返し。
気づけば、日が傾き始めていた。
境内に戻ると、宮司さんが腕を組んで待っていた。
「今、終わりましたよ」
そう言うと、宮司さんはため息まじりに言った。
「……しかし、あなたも毎回飽きずに首を突っ込みますね」
「すみません」
思わず頭を下げる。
宮司さんは少しだけ表情を緩め、しかし真剣な声で続けた。
「ただ、それもあなたの“縁”なのでしょう。彼は、あなたが居たから助かりました。 しかし、あなたも気をつけないといけませんよ」
その言葉が、妙に胸に残った。
境内の端では、ぐったりした彼が巫女さんに支えられて座っていた。
俺は彼を抱えるようにして車に押し込み、
シートベルトを締めさせる。
改めて宮司さんに深く頭を下げ、
「ありがとうございました」と伝えた。
宮司さんは静かに頷き、本殿の方へ戻っていった。
車に乗り込むと、夕闇が迫っていた。
エンジンをかけながら、俺はため息をつく。
(……彼女になんて説明しようか)
あの“貼り付けた笑顔”や、女の声のことなんて言えるわけがない。
「まぁ……無事に帰って来れて良かった」
そう思うことにした。
車を走らせると、神社の鳥居がバックミラーの中でゆっくり遠ざかっていった。
その瞬間、助手席の彼が小さく息をついた。
まるで、長い悪夢から醒めたみたいに。




