喫茶店にて4
「実は前から行きたかった場所へソロで撮影に行ったんや。そこ、女性には触りがあるって噂もあるしな」
そこまで言って、友人はコーヒーを一口飲んで、少し考え込むように視線を落とした。
その“間”が妙に長い。
嫌な予感がして、俺は眉をひそめながら言った。
「……まさか、前から行きたがってたけど
やめとけって言ってた廃ラブホか?」
言った瞬間、友人は目をそらした。
完全に図星。
「はぁ……」
ため息が自然と漏れる。
呆れと、ちょっとした心配が混ざったやつ。
「で?」
続きを促すと、友人は肩をすくめて、観念したように苦笑した。
「いや、その……行ってもうたんや」
相棒の彼女が、コーヒーのカップを両手で包んだまま、少しだけ困ったように笑う。
「止めたんだけどね。“ソロで行くほうが臨場感ある”とか言って聞かなくてさ」
「お前、ほんまにアホやろ」
そう言うと、友人は「いや、まぁ……」と曖昧に笑った。
ただ、その笑いはいつもの軽さじゃなかった。
どこか、“言いにくいことを抱えている人間の笑い”だった。
相棒の彼女も、さっきまでの明るさを少し引っ込めて、静かに付け足す。
「帰ってきた日はね、
別に何も言わなかったんだけど……
翌日からちょっと様子がおかしくて」
友人が慌てて手を振る。
「いやいや、別に“おかしい”ってほどでも……」
「ううん。おかしかったよ」
彼女は淡々と言う。
責めるでもなく、ただ事実として。
その言い方が逆に重い。
友人は観念したように、深く息を吐いた。
友人は観念したように、
コーヒーのカップを指で軽く押しながら言った。
「……まぁ、順番に話すわ」
相棒の彼女も、少しだけ姿勢を正してこちらを見る。
友人は一度息を吸い、言葉を選ぶようにゆっくり口を開いた。
「まずな、あそこに行った日は……」
そこで、ほんの一瞬だけ視線を落とす。
けれど、さっきまでの“言い淀み”とは違う。
単に、思い出す順番を整えているだけの間。
相棒の彼女が、その沈黙を埋めるように柔らかく言う。
「順番に話せばいいよ。
私も横で見てたし、補足はするから」
友人は小さく頷き、ようやく本題に入る準備が整ったようだった。




