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迷子の子

その日は珍しく定時で仕事が終わった。

よしよし、と心の中で呟きながら更衣室へ急ぎ、素早く着替える。

特に用事はないけれど、帰れるときはさっさと帰るに限る。

駅まで走り、ちょうど来た電車に飛び乗った。

乗り換えを済ませて大きめの駅に着き、バス停へ向かおうとしたときだった。

泣いている子どもがひとり、柱の影に立っていた。

周りの大人たちは、そこに人などいないかのように通り過ぎていく。

(なんで誰も気づかんのやろ。)

そう思った瞬間、なぜか放っておけなくて声をかけていた。

腰を落として目線を合わせる。

「君、迷子かな? 大丈夫?」

子どもは泣き止み、こちらをじっと見た。

涙の跡だけが残っている。

「パパとはぐれたの」

「そっか。じゃあお巡りさんとこ行こか?」

そう言うと、子どもは首を横に振った。

「ううん。おじさん、あっちの方に行けばいいって言われたから、連れてって」

指さしたのは、駅前から少し離れた観光エリアの方向。

まぁ、たまにはええかと思い、子どもの手を取った。

歩きながら「君、お名前は?」と聞いても、首を横に振るだけだった。

「どうしてここにいたん?」と聞いても、返ってくるのは「わからない」だけ。

首を傾げながら目的地らしい場所の近くまで来たとき、子どもが急に手を離した。

「あ、ここまで来たらわかるー!」

そう言って走り出し、そのまま角を曲がって消えた。

「おい、ちょっと待って…」

追いかけたが、すぐに見失ってしまった。

そんなことある?

胸の奥に小さな違和感が残ったまま、近くの交番へ向かった。

事情を説明すると、警官は眉をひそめて言った。

「次回からは、まっさきに連れてきてください。

下手すると誘拐扱いになりますよ」

怒られたというより、冷水を浴びせられたような気分だった。

首を傾げながらバス停へ戻り、家の最寄り行きのバスを待っていると、偶然、友人に会った。

「お前さ、さっきひとりで喋りながら歩いてたけど大丈夫か?仕事しんどいんやったら話くらい聞くぞ」

「えっ? いやいや、迷子連れて歩いてたんやけど」

そう言うと、友人は本気で気味悪そうな顔をした。

「いや、声かけたけどフル無視で、お前ひとりであっちの方に向かって歩いてたぞ。マジで怖かったからな」

背筋に冷たいものが走った。

「そ、そうか……ひとりにしか見えんかったんや」

「そう言ってんじゃん。まぁええわ、明日の帰り飲みに行こうや。後でメッセ送るわ」

そう言って友人は去っていった。

バス停にひとり残され、夜風がやけに冷たく感じた。

(あれは、迷子じゃなかったんか?)

でも、泣いてたし、手も温かかった。

目的地まで連れていけたなら、それで良かったのかもしれん。

そう自分に言い聞かせながら、星が出始めた空をぼんやり眺めてバスを待った。

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