友人からの預かり物5
「おいおい、まさかとは思うけど……その刃物、俺に預かれってか」
そう言うと、友人は顔を上げた。
申し訳なさそう、というより縋りつくような目 をしていた。
その目を見た瞬間、胸の奥がざわつく。
「お前なぁ……それならちゃんと筋を通せよ。
押しかけて来て、置いていこうとするとか……どうかと思うぞ?」
そう言うと、友人は肩をすくめるようにして、
「……ごめん……」
と、小さく呟いた。
声が細い。
普段のあいつからは想像できんほど弱い。
「はぁ……で? どんな小刀やねん。まさかとは思うけど、マキリとかではないよな?」
そう聞くと、友人は眉を寄せて、
「……わからん」
としか言わない。
どうやら“マキリ”という言葉自体を知らないらしい。
「木彫りの柄と鞘じゃないやろな?」
改めてそう聞くと、友人は一瞬だけ目をそらし、
「……いや、それや」
と、観念したように言った。
その瞬間、部屋の空気がひとつ沈んだ気がした。
木彫りの柄。
木彫りの鞘。
海外の友人から“日本の古い小刀”として渡されたもの。
そして、触っていないのに増えていく傷。
友人は、膝の上で握った拳をじっと見つめながら続けた。
「……あれ、なんなんやろな。見た目は綺麗なんやけど……触ると、なんか……冷たいっちゅうか……」
言い淀む彼に対して、
「とりあえず出してみろ」
そう言うと、友人は一瞬だけ肩をすくめ、
触るのも嫌そうに、恐る恐るカバンの中へ手を入れた。
布の擦れる音が、やけに大きく聞こえる。
そして、そっと取り出した。
パッと見は、普通のマキリに見える。
柄も鞘も木彫りで、素朴な造り。
けれど、素朴というより“古い”という印象のほうが強い。
マキリは、魂が宿るとも言われる。
下手に扱うと怪我をする。
そういう伝承が多い。
友人の手に傷が多いのは、持ち主として認められなかったのだろう。
そう思うと、胸の奥がざわつく。
怖さというより、妙な興味が先に立つ。
しかし、とんでもない物を持ってきたものだ。
彼に渡した本人も、おそらく手に負えなくなって譲ったのだろう。
柄の彫りを見る。
細かく、丁寧に、深く掘られている。
素人の手ではない。
物としては、間違いなく良いものだ。
ただ…良すぎる。
「さて……どうしたものか」
思わず独り言のように呟いた。
マキリは本来、生活の道具だ。
しかしこれは、生活の匂いがしない。
人の手を離れて、長い時間をどこかで眠っていたような、そんな“冷たさ”がある。
友人は、マキリを置いた手をそっと引っ込め、自分の指先を見つめながら言った。
「……なぁ。俺、これ……持ってたらアカン気がするんや」
その声が、妙に弱かった。
テーブルの上のマキリは、ただ静かに横たわっているだけなのに、部屋の空気がひとつ沈んだように感じた。




