友人からの預かり物1
友人から電話がかかってきたのは、休日の朝一番だった。
まだ布団を恋人にして、ぬくぬくと現実から逃げていたところに、けたたましい着信音が刺さる。
「……誰やねん……」
片目だけ開けてスマホを見る。
画面には友人の名前。
眠気が一気に濃くなる。
「無理……」
そう呟いて、スマホをそのまま布団の奥へ放り投げた。
呼び出し音は一度途切れ、部屋に静けさが戻る。
……と思ったら、すぐにまた着信音が鳴り響いた。
「うるっせぇなぁ……」
布団から這い出しながら画面を見ると、やっぱり同じ友人。
時間は9時を少し過ぎたところ。
昨日の夜更かしのせいで頭はまだ霧の中だが、観念して電話に出る。
「……もしもし……」
「おぅ! やっと出たな!」
寝起きの脳に刺さるほど声がでかい。
鼓膜が抗議してくる。
「なんやねん……俺は惰眠を貪るのに忙しいねん……」
そう文句を言うと、友人はまるで気にした様子もなく、
「ちょっと預かってほしいもんがあるねん。今から行ってええか? てか、あと10分で着くねんけどな?」
と、ガハハと豪快に笑った。
「は? ふざけんなよ。休日の朝から押しかけてくるんかよ」
そう返すと、友人は笑いを少しだけ引っ込めて、
「まぁまぁ。お前にしか頼めんのや」
と、妙に低い声で言った。
その一言が、寝起きの頭にじわっと染み込む。
いつもの軽さとは違う、どこか湿った響き。
「……何やねん、その言い方」
そう言いかけた瞬間、友人はかぶせるように、
「とにかく、もう向かってるから。玄関だけ開けといてくれや」
と言い残し、電話を切った。
スマホの画面が暗くなると、部屋の静けさが戻る。
だが、さっきまで布団の中でぬくぬくしていたはずなのに、背中にひやりとしたものが残ったままだった。
“預かってほしいもの”。
“お前にしか頼めん”。
そして、あの妙な声の湿り気。
朝の空気が、少しだけ重く感じた。




