深夜の電話3
「さて、本題やけどな」
そう切り出す声が、さっきまでの陽気さより少し落ち着いて聞こえた。
「おぅ」
そう答えつつ、ペンを持つ手に自然と力が入る。
紙の上に意識が集まるのが自分でも分かる。
「ええとな、駅から俺ん家までは全部大通りで帰れるやろ? でも今日はあえて細い路地に入って帰ってみたんや」
「おいおい、思いっきり不審者やないかい」
「まぁな」
友人が湯呑みを持ち上げる気配がして、
ズ…ッ
とお茶をすする音が受話器越しに聞こえた。
「でや、歩いてたら急に焦げ臭い匂いがしてよ。火事かな?と思って周り見渡しても何も無いねん」
ペンで要点だけを走り書きしながら、
「へぇ、近くに火の気や、タバコ吸ってる人とかおったでもなく?」
そう聞くと、友人はすぐに否定した。
「おぅ。タバコの匂いじゃなくてな……なんやろ、めっちゃ物が燃えるような焦げ臭さや」
そのあと、コトン と湯呑みを置く小さな音が続いた。
深夜の静けさの中で、その音だけが妙に鮮明に響く。
「んでや、とりあえず小火で、燃え始めやったら火の手も見えにくいやろ思て、その辺キョロキョロしよったねんけどな。煙も見えんかったんや」
友人の声は落ち着いてるけど、状況を思い返してる感じが伝わってくる。
「深夜の時間やし、燃えとったらパチパチとか聞こえるやろ?」
「そうやな。小火でも明るくなるからわかると思うわ。しかも焦げ臭い匂いしてるなら、それなりに燃えとるやろしな」
そう返しながら、ペン先が紙の上を滑る音が自分でもはっきり聞こえる。
友人はその間に、
ズ…ッ
とまたお茶をすすった。
「せやろ? それが全然なんも無いねん。匂いだけ、ふわっと来てよ」
湯呑みを置くコトンという音が続く。
深夜の静けさの中で、その音だけが妙に鮮明に響いた。




