深夜の電話2
「今日、会社の飲み会あってよ、さっきまで飲んでたねん」
声にまだ酒の余韻はあるけど、どこかシャキッとしている。
どうやら今は酔い醒ましのお茶をすすっているらしい。
「お前の会社、飲み会多いよな」
「おぅ。俺みたいに飲むの好きなやつには天国やで。週末前なんか特にやな」
「せやろなぁ。俺は苦手やわ」
「お前飲まへんもんな。もったいないでほんま」
「おぅ」
向こうで湯呑みを置くコトンという音がした。
酒じゃなくて、温かいお茶の音や。
「んでな、三件目行った帰りや。終電なんか当然ないから、しゃあなし歩いて帰っとってん」
「タクシー使えよ」
そう言うと、友人はすぐ笑いながら返してきた。
「いやいや、三件目まで行ったら懐スカスカやんけ。タクシー代払ったら明日の昼メシ抜きやわ。ほら、今もお茶で誤魔化してるしな」
豪快に笑う声が受話器越しに響く。
酔いは引きつつあるけど、テンションはまだ高い。
「んでな、どうせ歩くなら今日は違う道で帰ったろ思てよ。お前みたいに財布拾うかもしれんしな」
「いや、何を目的に歩いとんねん」
思わずツッコむと、向こうでまた笑い声が弾けた。
お茶をすする音と笑い声が混ざって、深夜のゆるい空気がそのまま伝わってくる。
「全く、人が財布拾うのが多いからって真似して、変なことに巻き込まれたら俺が後味悪いやんけ」
そう返すと、向こうはすぐ笑いながら言い返してきた。
「でも、そのおかげで不思議な体験出来たんやから、お前的にはプラスやろ?」
ほんまに悪びれた様子がない。
むしろ“ほらな、ええネタやろ”と言わんばかりの声色だ。
「まぁな。でも、次からは気をつけろよ」
そう言いながら、こちらもマグカップを口に運ぶ。
少し渋みの残ったお茶が喉を通っていく音が、静かな部屋に小さく響いた。
電話の向こうでは、友人が湯呑みを置くコトンという音がした。
お互いにお茶をすすりながら、深夜の空気だけがゆっくり流れていく。




