深夜の電話1
ある日の夜、友人から電話がかかってきた。
「よう、今いいか?」
時計を見ると、もう日付が変わっている。
こんな時間に電話をよこすのは、だいたいこいつくらいだ。
「どうした? ちょうど風呂も上がってのんびりしてるからいいけど」
そう返すと、受話器の向こうでくぐもった笑い声がした。
「おぅ、今な、ちょっと不思議な体験してん。これは怪奇蒐集してるお前の領分やろ思てな」
「怖い話か」
「いや、俺自身は全然怖ないねんけどな」
いつもの調子で、楽しそうに言う。
「ちょっと待ってや、メモするから」
そう言って、机の引き出しからメモ帳とペンを取り出す。
カチッとペン先を出す音が、静かな部屋に小さく響いた。
その間にも、電話の向こうで友人がニヤニヤしている顔が自然と浮かぶ。
「おぅ、いま家ついたとこやし、俺もお茶入れてくるわ」
ガチャガチャと湯のみを出す音が聞こえてくる。
相変わらずの自由人である。
向こうがお茶を淹れている間に、こちらも急須を手に取った。
コポコポと音を立てて、少し冷めた渋みのあるお茶がマグカップに落ちていく。
「お待たせ。準備できたかー?」
軽快な声が戻ってくる。
「おぅよ。いつでもいいけど、お前早口やからゆっくり喋れよ。俺、書くの遅いからな」
そう返すと、友人がまた笑った気配がした。
「はいよ。相変わらずお前は、不思議な話やら怖い話に目がないよな」
軽く茶化すように言うと、向こうがすぐ噛みついてきた。
「お前なぁ、切るぞ?」
「はいはい。そんな怒るなって」
そう返すと、受話器の向こうでくつくつ笑う気配がした。
「いやいや、この連絡来といて寝れんやろ。気になってな」
その言い方が妙に楽しそうで、“ああ、こいつは本当に誰かに話したくて仕方なかったんやな” と自然に分かる。
こちらもマグカップを手に取りながら、
「ほな、聞いたるわ」
と肩の力を抜いて言う。




