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056 カラオケ

「ふわぁ、わたし友達とカラオケ行ったの初めて!」


 近くの安いカラオケボックスに到着。

 俺も久しぶりだな。家のことがあったから友達と行くことはほとんどなかった。

 どっちかというと夜華の練習に付き添うことが多かったか。あいつ歌が上手だから聞き手でも十分楽しめたんだよな

 前を歩く姫乃に声をかける。


「姫乃はカラオケに行ったことあるのか?」

「私の友達はみなもしかいませんから。みなもが誘えばって感じですね」

「姫乃の歌か。聞いてみたいな」

「え〜。でも燐くんは私の焦った声の方が好きなんですよね」


 ムラっときて、思わず姫乃の脇腹をくにっと揉んでしまう。

 姫乃はたまらず体をくねらせる。


「きゃはんっ! こんな所でぇ」


 姫乃が予想以上に大きな悲鳴をあげたため、前にいた三人が振り返った。


「燐、何してるの! イチャイチャ禁止」

「姫乃の顔……。ねぇ燐音っち、さすがに調教しすぎじゃ……」

「燐音、外でアブノーマルなことをするのは」


「あっ。その……いや、これは違うんだ!」

「もう燐くんったらぁ」


 しまった、ついいつものノリをやってしまった。

 でも姫乃はご機嫌だしこれで良かったんだろうかと思えてくる。


 そのままカラオケボックスへ行き、さっそく準備を始める。

 鈴華はカラオケは初めてと言っていたな。

 それに楽器関係は全部だめといっていたし、どうだろうか。


 鈴華が平原さんに教えてもらいながら選曲をしていく。

 鈴華はどんな曲を歌うんだろうか。鈴華は苦笑いしながら姫乃を見た。


「ねぇ、姫乃。いきなり耳を塞ぐのは失礼すぎると思うんだけど」

「すみませんが鈴華さんの行動全てが私の理解を超えてることが多いので」

「ふんだ!」


 鈴華がやってきて数日、姫乃の怒号がよく響いてたもんな。

 俺は涙目でごめんなさいと謝る鈴華が可愛らしくて許してしまいたくなるから美人って得だなって思ってる。

 早速音楽が流れてきた。


「これ、わたしが一番好きな曲なの! 一番得意な歌だから」


 鈴華が立ち上がり、モニターの側にまで近づいていく。

 マイクを手にポージングを開始した。

 そして曲のイントロが流れ始めた。


 あれ……この曲。

 鈴華は突然両手を挙げて曲の振り付けを始めたのだ。

 みんなが唖然とする。カラオケでこんなことするやつなんてほとんどいない。


 だがそれに対して誰も口にすることはなかった。その振り付けは見事といっても良い模倣で鈴華ほどの美貌の少女が行うことで皆の視線を釘付けにしてしまったのだ

 そしてその振り付けには見覚えがあった。


「〜〜♪」


 その口から流れた歌声は想像以上に音程が整われていた。

 声も腹からしっかり出ており、その曲が何度も何度も練習したことがよくわかる。

 その曲は超人気アイドルグルーブ、シャイニングガールズの人気曲だった。

 そしてその曲はよく知っているし、何ならあのアイドルグループ全員と顔見知りだ。

 なぜならあのグループの絶対的エースに妹である夜華が所属しているからだ。


 少し息を切らしたものの、夜華の振り付けを行いながら一曲全部を歌い切ってしまった。


「あれ? みんなどうしたの。なんか変だったかしら」


 俺達の様子に鈴華は混乱してるようだった。カラオケに行ったの初めてって言ってたもんな。


「カラオケで振り付けまでやる人はほとんどいないぞ」

「え、嘘っ! は、恥ずかしい」


 俺達の様子に鈴華は恥ずかしそうに顔を背ける。


「鈴ちゃんすごいっ! めちゃくちゃ上手かったよ。びっくりした!」

「あんなに激しいダンスしながら歌えるだなんて……すごいよ!」


「そんなぁ、大したことないわよ~」


 褒められなれてないのか鈴華は顔を赤くして慌ててしまっていた。

 和彦のいうとおり鈴華は一曲ダンスをしながら歌い切っている。

 そういえばお世話係の時いろんな所連れ回されたけど鈴華は全然疲れたそぶりを見せなかったんだよな。

 相当に体力があるのかもしれない。


「えっぐ……ひっく……」


 びっくりしたのは姫乃が大粒の涙を流していたのだ。

 あの鈴華の歌声に感動したのだろうか。


「姫乃、そんな泣かなくてもいいじゃない」

「だって……だって」


 姫乃はハンカチで涙を拭いて言葉を続ける。


「なんにもできないポンコツの鈴華さんにも出来ることがあるんだと思うと嬉しくて」

「そんな涙っ!?」


 すっごくひでぇ言いよう。


「良かったです。ほんと良かったです……」

「姫乃、わたしに対して極悪すぎない?」


 姫乃の目がくわっと広がる。


「毎日毎日、家事一つもまともにせず、上げ膳据え膳で暮らして。私の燐くんだいじなものにベタベタベタベタ、嫌みの一つくらい許容できないんですか」

「ごめんなさい」


 この力関係は何ともいえない。

 ちなみにマジで鈴華は何もできない。姫乃が家事を教えようとしたら三日で見放した。

 俺がゆっくりと教えている状況なのだが聞かずに俺にひっつくこうとしてくるのでまた姫乃の怒り度が上がるという始末だ。


「でも歌と踊りがすごかったのは認めます。私にはできないことですから」


 その姫乃の言葉に鈴華は満面の笑みを浮かべた。姫乃に褒められたことが本当に嬉しかったんだろう。


「わたしね。シャイニングガールズが本当に好きなのよ。特にセンターのヨルカ。年下なのに強くてかっこよくてすごく憧れたわ。世間では高飛車とか言われてるけどきっと心が暖かい人だと思うの」

「いえ、まんま世間の評価のままですよ。とても攻撃的で我が儘が顔からにじみ出ているようでした」


「家族想いって聞いてるわ。お兄さんが大好きだそうよ」

「それはその通りですね。中学生になってまでお兄さんと平然と一緒に布団に入るブラコンぶりですからね。これはお兄さんの方もどうかと思いますが」


 鈴華に貫通して俺に文句言うのやめてください。

 でもその割に新妹は毎晩鍵を使って俺の部屋に侵入してくるけどな。


「だからわたし、ヨルカの振り付け全部覚えてるの。勉強とかお稽古とかは全然できなかったけど……そっちは好きだったから」


 妹のおかげで一人の女の子の支えになれたことはいいことだった。

 平原さんが声をあげる。


「じゃあ鈴ちゃんはボーカル! 燐音っちはパフォーマー。他は楽器演奏ってことで!」


 うん、これ結構いいものが出来上がるんじゃないだろうか。

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