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048 その手を差し出して

 姫乃鈴華が対面をする。

 今も言葉を選んで口にする姫乃。鈴華もまた頭を俯け気落ちしているような雰囲気だった。


「もう聞いたわよね……。わたしは片桐家の中で落ちこぼれだったの。ずっとずっと……無能だって言われ続けてきた」


 それから鈴華は少しずつ……身の上話をし始める。

 母親からずっと勉強を強要されていたこと。そして優秀な姫乃と比較し本家の令嬢としてその能力を軽んじられてしまったことを呟いた。


「そんなことがあったんですね。全然知りませんでした」

「姫乃……」

「片桐として恥ずかしくないように努めてきましたが……それが鈴華さんを追い詰めていたんですね」


 姫乃が努力すればするほど鈴華は叱責され苦しんでいく。

 何なんだ。それ片桐家ってどんな地獄なんだよ。


「あなたが羨ましかった。みんなから羨望を受けて片桐家らしく振る舞うあなたが凄く眩しく写ったの。だから……わたしも欲しくなった。燐が側にいてくれたらわたしも片桐家として恥ずかしくない人間になれるかもって思ったの」


 だから姫乃に対抗しようとしたのか。

 そんなことをしなくてもありのままを見せればきっと受け入れられたんじゃないのか。

 いや、姫乃の話も含めてそう簡単にいくものでもないのだろう。俺が想像もつかないような世界だ。


「もう……いいわ。お父様に行って転校させてもらう。わたしがここにいても迷惑をかけるだけだから」

「そんな簡単に転校できるのか?」

「どうかな。学校行かずに家にいてろって言われるか下手すれば勘当されちゃうかも。お母様はもうわたしには興味がないみたいだから」


 鈴華は落ち着きを取り戻したようだ。しかし投げやりな雰囲気となっている。このまま行かせてはいけないが俺の言葉で届くだろうか。

 鈴華は姫乃を見た。


「もうあなたに会うこともないわ。良かったわね。嫌いなわたしがいなくなって燐を独占できるわよ……って元々独占してたか」

「鈴華……」


 視線を外した鈴華に姫乃は何ていうのか。恐る恐る姫乃を見る。

 予想と違って姫乃は真面目な顔でため息をついていた。


「勘違いしてますよ。私は別に鈴華さんを嫌いだったことはありません。あなたが転校してきたからの行動はさすがに腹が立ちましたけど」

「嘘。わたしがあなたの立場だったら絶対片桐家全部を恨んでるわ。わたしを哀れんでるの!」


「おっしゃる通り、私は片桐家は嫌いです。実の父はまだしもあなたの母親には憎しみすらあります。親族や本家の使用人達も正直良い思い出はありません」

「だったら!」


「ただ一人だけ……思い出をくれた人がいるんです」


 姫乃は制服のポケットから何かを取り出した。

 あれは確かいつも読んでる本に挟んでいる栞か。中には黄色のイチョウの葉が入っている。

 確か……大事な人からもらった物って言ってたっけ。


「それ……もしかしてあの時の」

「覚えたんですね。私は忘れたことはないですよ。突然現れて私を妹だって言って手を引っ張ってくれて連れ出してくれたこと」


 姫乃を本当の意味で妹と呼べる人物は一人しかいない。その人物は姫乃の言葉に固まってしまっていた。


「初めて本家の庭を探索してすごく楽しかったんですよ。そしてあなたはこれをくれたんです。私と同じ髪色で綺麗だと言ってくれたイチョウの葉を……」

「あ……」


 その栞は昔、鈴華との思い出の品だったのか。

 姫乃の金の髪色と同じイチョウの葉。鈴華と姫乃は幼少の時に遊んだ記憶があったんだ


「ずっと持っててくれたんだ……。あんな小さい時のことなのに」

「忘れるわけないじゃないですか。その……あの……」


 姫乃は少し照れたように言いよどむ。少し躊躇していたがこほんと一呼吸置いて声を上げた。


「お、お姉さんからもらった大事な物ですから」

「う、うぅ……ごめんなさい! ひっく……ごめんなさい。忘れてると思ってた。嫌われてると思ってた」


 鈴華の瞳から大粒の涙が流れ出す。


「あぁぁぁぁん……、姫乃、ごめんねっ。わたしが馬鹿だった。本当は仲良くしたかったのぉぉ! お姉ちゃんって言われたかった。うわあああああぁぁぁん」

「……まったく素直じゃない姉ですね。ぐすっ」


 鈴華は大声を上げて泣き散らした。つられて姫乃に瞳にも涙が浮かぶ。

 すれ違っていた二人がようやく……本当の姉妹になれたようだ。


 俺はかがんで、涙で顔をぐしゃぐしゃにさせる鈴華にハンカチを渡す。


「なぁ鈴華。俺も姫乃も血のつながった家族に虐げられて……自分らしい生き方ができなかった。だから本当に必要としていられる家族が欲しかった。姫乃はそんな俺に手を差し伸べてくれた」

「……燐くんはその手を受け取ってくれました」

「だからさ」


 俺と姫乃は鈴華に向けて手を差し伸べる。


「俺達と家族にならないか」


 鈴華もまた血のつながった家族によって自分らしい生き方ができなかった。

 だからきっとこれからは自分らしく生きていけると思う。

 そのときにお互い支えられる存在になってあげたい。


 俺の差し出した手を……鈴華は掴んだ。


「ありがとう。燐、姫乃。二人が家族になってくれるなら……わたし頑張るから」


 飾らない鈴華の笑顔。今日初めて彼女は心からの笑顔を見せた気がした。

 これから……俺と姫乃と鈴華の家族生活が始まる。

1章完結となります。


ちなみにイチョウのエピソードは19話にあります。いきなり出てきたわけじゃないですからね!


書きためがもうちょっとだけあるのでまだ続きます!


1章終わりましたのでもちろん強制ではございませんが、ブックマーク頂けてここまで読んで頂けた読者の皆様への応援と期待も兼ねて下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けないでしょうか。

もちろん★1つでも構いません! お気持ちだけでも構いません!

このタイミングでどうかお願いしますっ!!!

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