049 家族として
姫乃と片桐鈴華が和解し、二人は手を繋いで教室へと戻ってきた。
鈴華は涙ながらクラスメイトに謝罪。姫乃が許すならということで再びクラスに受け入れられることになった。
やや高飛車な性格はそう簡単には変えられないだろうけど、姫乃が側にいるおかげで鈴華は新しい生き方で学校生活を送ることができそうだ。
鈴華のお世話係は俺から姫乃に変更。
半分血が繋がっているとはいえ妹が姉のお世話をする何とも不思議な関係となってしまうがきっと二人なら仲良く……仲良く。
「このポンコツ姉っ! 何度言ったら分かるんですか」
「ぴえーーんっ!」
仲良く?
今日も鈴華は姫乃に怒られて泣きべそをかいていた。
「そんなに強く怒らないでよぉ」
「怒りたくて怒ってるんじゃありません。まったくもう!」
「まぁまぁ、落ち着こう」
基本感情が昂らない姫乃がここまで怒るんだ。身内だからってのもあるのだろうが。
姫乃は俺を見て頭を下げた。
「すみませんでした」
「え、なに?」
「燐くんが鈴華さんのお世話係に嫉妬してましたが……あなたは本当にすごいです。よくこんなポンコツ姉に怒らず接することができましたね。仏ですか?」
それはさすがに言い過ぎな気がする。
確かに鈴華の突拍子のない行動に相当手を焼いていたが……。
姫乃が鈴華のお世話係になって三日あまり。昨日家に帰ってくるのめっちゃ遅かったし、姫乃は疲れ切ってたんだよな。
「燐は優しいんだもん」
「その優しさにかまけてあれだけのことをしたんですか。反省しなさい」
「ぴえん」
ドス聞いた姫乃さんの声。普段の凛々しい声やくすぐってる時の危機的状況の声も素晴らしいけど、こんな声もたまらなくいい。
でも俺がこんな声で怒られたら泣いてしまうかもしれんが。
「でも鈴華は何をしたんだ」
「いろいろあるんですが……やっぱり一番はコレですね」
姫乃はスマホを取り出して表示して見せた。
「ちょっと姫乃! 燐に見せるのは駄目だって」
「なんで?」
「ほら、わたしのプライベートなわけだし、男の子に見られるのは」
「はい、燐くん」
容赦ない。スマホに収められた写真を見てぞっとした。
「き、きたねぇ」
「ぴえん!」
俺の言葉に鈴華が涙ぐむ。
すぐ分かった。鈴華の住んでいるマンションの部屋の写真だった。
リビングの床上はゴミだらけで脱ぎ捨てられた服があちらこちらに飛んでいた。
確かタワーマンションに住んでいたはずだ。どうしてこんなことになっているのか。
俺も鈴華のお世話係だった頃、さすがに彼女の家までは行ってない。
「ほんとぞっとしました。家をこんなに汚くできる人間がまさか……身内にいたとは」
「一応ちょっと片付けたんだよ?」
「三日かけてかなり綺麗になりました。なのにこの人は私の目の前で服を……!」
「鈴華、実家にいた頃からそうだったのか?」
「お手伝いさんが全部やってくれたから……」
そうは言ってもここまでにはならんだろ。
脱ぎ捨てられた服には下着とかも見えるので視線を外す。
「お手伝いさんはこなかったのか? さすがに鈴華の立場なら誰かつくだろ」
「お父様からも勧められたんだけど断ったの。一人でやっていけるって言ってね」
鈴華は姫乃を見た。
「姫乃がお手伝いなしで一人でやれてるからわたしもやれるって言い張ったんだけど……」
「私も最初は大変でしたけどここまでではなかったですよ」
このあたりは性格の差なんだろうな。
結局鈴華が家族の反対を押し切って一人でタワーマンションに住むことになったのか。
そして姫乃が苦労する。
「一人暮らしをしたいなら一人でちゃんと生活できることを証明しないと駄目ですよ」
「が、がんばる」
「あとはこの赤点だらけのテストですね……」
「ぴえん」
鈴華の成績は本当にひどかった。
この前の授業でも当てられた時、固まってたもんな。
「初めて会った時は流暢に喋ってたじゃないか。あの感じを出せばいいんじゃないか」
「無理よ。ずっと毎晩お喋りの内容シミュレーションしてたんだから。あんなこと毎日やってたらおかしくなっちゃう」
「それでよく初日、私にケンカ売ってきましたね」
転校当初の鈴華は普通に令嬢で生徒たちを虜にしてたもんな。それも涙苦しい努力だったとは……。
この事件が無くても鈴華はボロを出していたんだろうと思う。
「こんなわたしを姫乃と燐は受け入れてくれたから……嬉しい」
「まったくもう」
ため息をつきつつも姫乃は優しい子だから鈴華を見捨てることはしないだろう。
俺もまた姫乃、鈴華とは良好な関係でいたいとは思っている。
実の家族に虐げられた者同士、助け合いながら過ごしていきたい。
三人で一緒に帰って、途中の分岐点で分かれる。
鈴華はマンションに帰っていき、姫乃も自分のマンションに帰って行き、俺は当然。
回り道をして姫乃のマンションへ向かう。鈴華に同居していることがバレたらまずいからな。
俺は少し遅れて姫乃のマンションへと帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
そう、これが今の日常。
だけど姫乃との関係が少し変わったことがある。
それがこれ。
「ねぇ、燐くん。燐くんは私が一番好きなんですよね」
「……」
鈴華との大立ち回りのとき、俺が姫乃が一番大切な女の子であることをクラス中に広めてしまった。
あれから完全に俺は姫乃と交際していると思われている。
あれほど大々的に守ったこともあって、姫乃の彼氏として認められたわけではあるが……実際は家族であって別に恋人ではない。
「家族として……なんですよね」
そう、それだ。俺は姫乃のことを……。
「私も同じなんですよ」
姫乃がぴたりと俺の体にハグをしてくる。
俺の胸に顔を埋めてくる。
「燐くんのこと家族として好きですよ」
「かなり」
「とても」
「すごく」
姫乃は見上げ、そのブルーサファイアの瞳と目が合った。
「大好き」
女の子として好きになっちゃ駄目なんだろうか。
そろそろ甘々な家庭になってきたかも。





