038 本物
姫乃はどこに行った。校舎の外へ行ってないはずだ。それに授業が始まる時間帯だから身を隠す場所も多くない。
先生に見つからないように注意し校内を探し回った。
そして校舎裏で見つける。印象的な美しい金の髪色の女の子。ただ今回に限ってはその色が仇になってしまっているように思える。
姫乃は小さく立ちすくんでいた。
「姫乃」
「燐くん……バレてしまいましたね。私が片桐家の不義の子だということを……」
「そんな言い方やめろ! 姫乃は間違ったことなんてしていない」
それでも姫乃が肩を落としたままだ。ああいう形で判明してしまったこと以上噂は大きくなってしまうだろう。
「中学の頃から噂自体はあったんですよ。だから勉強を頑張って成績を維持したり、身なりに気を使ったりして片桐家に相応しい人間でいました」
高校に入った時は姫乃を不義の子なんて思う人は誰もいなかった。
むしろその容姿すら魅力の一つだって思われていたくらいだ。成績が下位で素行が悪かったらきっとそう思われていたから姫乃は努力したに違いない。
「あの鈴華だったか。なんで彼女はこの学園に来たか分からないんだよな」
「はい、事前に分かっていたらこんなに驚かないです」
「実際どうなんだ? 一応姉妹ではあるんだろう」
「私は本家の妻、彼女の母に嫌われていましたからね。教育に良くないということでほとんど顔を合わせていません。おそらく良い感情は抱いていないでしょう。私が生まれたせいで父との夫婦仲は悪化したと聞いていますし」
不義の子。つまり不倫ってことだもんな。
俺の両親だって双子を産んだ時は仲良かったけど今はかなり冷え切った関係になっている。お互いに不倫相手が出来たのが理由の一つだろう。
「あの場であんなことを言ったんだ。間違いなく姫乃を意識しているよな」
「彼女が本家の娘なのは間違いないのにそこまでして私を排除したいなんて」
いつも気丈な姫乃もさすがにショックを隠せないようだ。
声も震えている。
血の繋がりがあるからこそ敵になる。俺は正直よく分かる。
姫乃は振り返った。
「燐くんは私の味方でいてくれますか?」
「当たり前だろ!」
そんな当然なこと言われるまでもない.
俺は姫乃の手を掴んで引き寄せた。
このハグは家族としてのは信頼のハグだ。
「俺は側にいるって言ったろ。俺は絶対姫乃を裏切らない」
「……嬉しい。燐くんが側にいてくれて良かった」
本当に不安だったに違いない。このままクラスに戻れば奇異の目で見られたことだろう。
親友の平原さんだって別のクラスだし、守れるのは俺しかいない。
「俺は姫乃の家に厄介になってるんだ。俺を従えてるくらいに思っていいよ」
「ふふっ、そうでしたね」
姫乃は笑ってくれた。心が安らいでくれるならと安心する。
授業が終わるその時まで俺は姫乃の側にいた。彼女の隣で手を繋いでいたんだ。
再び休み時間になり一緒に教室に戻ってきた時、嫌な視線が集中することになる。
だけど騒ぎとなることはなかった。気のし過ぎだったのか、それとも。
「燐音」
声をかけてきたのは俺の親友の和彦だった。
教室を出る前に声をかけておいてよかった。
「あの後どうだった?」
「……片桐さん、お姫様の方に何か悪い話とかはなかったよ」
そうか。嘘八丁を言われていたらと思ったがそこまではしなかったようだ。
やはり片桐鈴華が何を考えているのか良く分からなかったな。
「だけど」
和彦は言葉続ける。
「燐音のことを詳しく聞いてたみたい」
「なんで俺のことを?」
「それは分からないよ。女子達だけで話してたからよく聞こえなかったし。燐音がお姫様を追いかけたからかも」
「そうか。変なことにならなければいいけどな。っ!」
片桐鈴華と目が合いそうになったので慌てて目を逸らしてしまった。
(二人一緒に帰ってきたってことは仲がいいのね……。だったら)
だけどその予感は的中してしまう。
数日後、職員室に担任教師に呼び出されてしまった。
「失礼します」
このタイミングでなぜ呼び出されたのか。
親との不仲の話であれば別になんとかなるが姫乃と一緒に暮らしている話が出てくるとまずい。
このあたりはちゃんと隠せてるし、この学園で知っているのは平原さんだけだ。彼女とは親しい関係だからバラされることはない。
「おう、葛西。悪いな」
「いいですけど……ってなんで片桐さんがいるんですか」
そこには渦中の人物、片桐鈴音の姿があった。
可愛らしい外見も姫乃に対する扱いを考えると魅力的には思えなくなる。
嫌な予感しかしない。
続く不穏
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