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【書籍化】身内の世話に疲れた俺が選んだのは学園のお姫様と家族になることでした  作者: 鉄人じゅす
1章

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039 お世話係

「片桐が学校に慣れるまでの世話役をおまえに頼みたいそうだ。受けてやってくれ」

「は? 先生、なんで俺が。同性の子に頼めばいいじゃないですか」

「そう言うなよ。片桐家のご令嬢の頼みなんだ。おまえにとっても悪い話じゃないし、頼むよぉ。なっなっ!」


 ちっ、大人の事情ってやつかよ。

 そういえば姫乃が言っていたな。この学園は片桐家の息がかかってるらしく、姫乃が何かしたとしても揉み消すことが簡単にできるらしい。

 姫乃は何もする気はないがこの鈴華という女も同じとは限らない。


「男が苦手なんじゃないのか?」

「ええ、でも慣れなきゃいけないし葛西くんはあの子の家族なんでしょう? だったらわたしにとっても家族じゃないの」

「……」

「あの子は片桐家にこのことを伝えていないみたいね。もし伝えたらどうなるかしら」

「っ! 分かった。助けてやるからそれはやめてくれ」

「ありがとう、葛西くん」


 もし俺のことを調べられたら1発で同居していることがバレてしまう。片桐家みたいなでかい家なら尚更隠せない。

 姫乃も下手すれば本家に戻されるかもしれない。俺だって実家に戻るしかなくなってしまう。


◇◇◇



 俺は学校にいる間、この片桐鈴音と一緒にいるはめになってしまった。

 仕方ない。この子が何を考えているか見極めてみるか。

 職員室を出て二人きりとなる。


「それで片桐さん。俺を指名した理由を教えてくれるか」

「さっきも言った通り。あなたの評判は悪くないって他の子達から聞いてたし……あの警戒心バリバリなあの子が異性のあなたを家族だって思ってるわけを知りたくてね」

「君は姫乃の味方なのか。それとも敵なのか」

「そんなに怖い顔しないで。男の子が苦手なのは本当なんだから」

「あ、ごめん」


 しおらしいことを言われると思わず気が削がれてしまう。

 姫乃はわりと強気だったけど、この子は違うのだろうか。だけど……油断をしてはいけない。そうも思える。


「それであの子と家族ってどういうことなの? 嘘ついてもいいけどすぐバレるわよ」


 どこまで本当のことを話すか。少なくとも同居していることだけは絶対話すわけにはいかない。


「たまたま意気投合しただけだよ。家族に愛されず一人で生きてきた姫乃とな。お互い足りないものを補いあってその結果が家族ってことさ。それ以外に妥当な言葉がなかっただけだ」

「家族に愛されず……ね」

「違うのかよ」

「間違いではないわね。あの子と会ったのは10年振りレベルだし。お父様も久しく会ってないって言ってたわ」


 片桐鈴華はさっきから姫乃のことをあの子としか言わない。名前すらも言わないのだろうか。

 半分は血が繋がっているんだろう。どうしてそんな他人行儀でいられるんだ。


「わたし……もう一つ聞きたいことがあるの」

「なんだよ」


 姫乃のことをさらに掘り下げてくるつもりか。

 これ以上余計なことは避けないと……


「あのね。みんなに聞いたんだけどこの学園って夕方にだけ購買で売られるパンがあるのよね?」

「え?」

「凄く気になるの! 教えて」

「あ、ああ。アレか」


 この学園の名物って言うほどではないが部活動をしている生徒のために夕方限定で高カロリーパンが売られる。

 俺は放課後すぐに帰っていたためそのパンを買うことはなかったけど話だけは聞いていた。

 彼女は興味深そうに語る。


「普通のパンだって聞くぜ」

「前の学院では購買は夕方までやってなかったのよ。だからそれもあって楽しみなのよね」

「それくらいなら俺を待たずに行けるだろうに。昼は学食で食べてるんだろ」


 片桐鈴華がお昼に他の生徒達と食堂で食事をしているのはみんなが知っていることだ。

 食堂の側に購買があるのでわざわざ俺が一緒に行く必要はない。


「……あまり大勢の人に言いたくないんだけど」

「ん?」

「わたし、方向音痴で1回で場所を覚えられないの。毎日お昼に行ってるのに一人で行けないがバレるのは恥ずかしいし」

「俺にバレるのはいいのか?」

「だからお世話係に指名したの。移動教室とか体育館とか迷子になりそうな時は助けてよね」

「それくらいはすぐに覚えてくれよ」


 さすがに10分もかからない道はすぐに覚えてほしいものだ。

 片桐鈴華はふわりと綺麗な黒髪を揺らしステップを踏む。


「さぁ行きましょう。かさ……ん、もういいわね。燐!」

「っ! いきなり下の名前かよ」


「あの子も呼んでたじゃない。だからいいかなって。わたしもややこしいから下の名でいいわ。あの子の名前は言えるのにわたしの名前は言えないって恥ずかしいこと言わないでよね」


「はいはい……鈴華。これでいいか」

「よろしい。それじゃ行きましょう」


 姫乃となんというか性格が全然違うな。

 血が半分しか繋がってないから当たり前とは言えるが。

 ただ……笑顔が眩しいくらい可愛らしいのは同じだなって思う。


「燐! 早く早く」

「ああ、っておまっ、方向逆だって! どこ行くんだ」


 方向音痴という話は本当らしい。

鈴華の願いはいったい。


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『身内の世話に疲れた俺が選んだのは学園のお姫様と家族になることでした』

2026年2月20日 発売です!

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