転校生君と雨の日ケーキ3
保健委員会からのお知らせとして、昼休みの放送中に流したい物がある事。教職員や生徒会、放送部から許可を貰わないと放送を流せないこと。教職員からの許可はいただいているが、放送部及び生徒会からの許可までの処理が遅く、まだ注意喚起等はポスターのみでしか行えていない事を告げる。
八宮先生は眉根を寄せて『あいつら、どういう事だ…?』と呟いている。ちょっと顔が険しいし怖いけど、運ばれてきたカタツムリケーキを食べるたびに緩むのは面白いかもしれない。
「そういえば、新谷と中山は保健委員だったな。相談するように西園寺から頼まれたのか?」
「そういうわけじゃないんですけど、少しだけ気になりまして」
決して他の周知方法が思いつかなくて面倒になったからとかではない。ないからね?
言い訳がましく新谷さんを見ると困ったような笑顔で返される。まあ、その……ごめんなさい。
「そうか……。先生からも言ってみる。生徒会顧問として放っておけないからな。理由も知っておきたい」
「八宮先生、生徒会関係者だったんだ?」
「まあな。先生の自己紹介をまともに聞いてるヤツはいないからあまり知られてないみたいだからなあ。先生、悲しいよ」
「泣き真似は止めてください。ケーキが不味くなります」
「新谷……今日は辛辣だな」
「ご、ごめんなさい。つい本音が出てしまいました」
「……まあ、プライベートだからな。そういう事もあるか」
八宮先生、なんだかんだ忙しそうだったけど生徒会の顧問してたのか。話を聞いて正解だったかも。新谷さんのご機嫌はなぜか悪いけど。……なんでだろうね?先生に当たるのは良くないし、後でちゃんと謝ろうね。
そんな視線を新谷さんに向けてから先生の方に目を向けると、先生は何かを考えるように顎を撫でている。
「……」
「先生?」
声を掛けてみると『そうだな』と呟き、僕に対してニヤつくわけでもなく、真剣な表情で口を開く。
「中山、話を聞いたついでにこっちの頼みを聞いてくれないか?明日、放課後に職員室に寄ってくれ」
「急ですね」
「今、やって欲しい事を思い出したからな」
「八宮先生、中山君だけですか?」
どこか不満げな新谷さんが問いかけるも、先生は苦笑いを返すだけだった。
先生も何か僕に用事が……というわけではないだろう。今思い出したと言っていたから。でも、課外活動の時みたいな呼び出す口述かもしれない。
よくわからないけど、僕に断る理由はないので頷いておく。
「分かりました。ではまた明日に」
「すまんな、中山。それに新谷も、デートの邪魔をした」
「だから違う……いや、でも。男女が出かけることは知り合いだろうがデートになるのかな。新谷さん、どう思う?」
「ふぇっ!?あの、その……た、多分そうなんじゃないかな?」
新谷さんは話を振るとアワアワと慌て始める。なんで間接キス紛いのことは平気で、こういうのが駄目なのはよくわからないけどね。
まあ、僕も先生もただからかってるだけなので、そんな反応されるとちょっと面白いかも。さっきの『あーん』の仕返しにはならないけど、まあこのくらいなら許してよ。
先生は僕を見て肩をすくめた後に、『自分の分は払って帰るからな。また明日、遅刻するなよ?』と言い残し、席を立ってレジへと向かって行った。
いつの間にかカタツムリケーキが無くなっている。一体いつ食べ終わったんだろ……。
「ねえ、中山君?」
「なにかな?」
「もしかして、なんだけど」
「うん」
「えっと……えっとね?」
僕に話しかける新谷さんは何か聞きたいことがあるみたいなんだけど、それが何かはちょっとわからない。でも慌てて聞くよりは待った方がいい、と思う。
「私達ってその……そういう風に見られてるのかな。恋人……みたいな?」
もじもじと胸の前で指を合わせて視線をさまよわせている新谷さん。思わず溜息が出そうになるのを堪える。
「そうかもしれないね」
「やっ、やっぱりそうなんだ……」
「だからって別に何も変わらないでしょ?恥ずかしがることないよ」
「……なんで、そんなに堂々としてられるの」
少し赤くなった頬を膨らして、僕をねめつける新谷さん。
かわいいアピールかな?という感想と、多分素だろうと呆れを混じえた感想でなんとも複雑な気分になる。それと同時に、胸の奥の黒い澱みが沸き立ち揺らいだような気がして、少しだけ気持ち悪くなった。
「僕も君もただのクラスメイトの関係だよ?事実がそうなんだから周りにどう思われようがいいよ、別に」
「……そっか。そうだよね」
「そうそう。だから気にしなくていいんだよ、新谷さんも」
少しだけ考えていた様子から『そうだね……そうするよ』と笑顔で返してくれたのでホッと息を吐く。
胸の奥の澱みが落ち着いてきたのを感じ、水無月風チーズケーキの最後の一口を放り込んだ。
新谷さんも同じように最後の一口を食べきったみたい。
「「ごちそうさまでした」」
僕は満足しながら、新谷さんもきっと同じだろう感想を抱きながら、感謝と美味しかったという意味を込めて手を合わせた。
ふと気がついたけど、お昼前なんだよね。ご飯は……まあいっか。今日はケーキがお昼ご飯だ。
「じゃあ帰ろっか」
「えっ?まだお昼前だよ?」
「えっと、新谷さん。ケーキだけだよね、今日のお誘いって」
スマホを取り出し、メッセージアプリを開く。何件かの新規メッセージは無視して新谷さんとのやりとりを見ると……うん、何もないよね。
「……何か用事でもあるの?ごめんね、忙しい時に呼び出したりして」
僕の様子に、楽しそうだった新谷さんが顔を俯きがちにして、申し訳無さそうにしている。事実を話しただけなのに罪悪感が湧いてきた。
「用事は特にないけど、この雨じゃ遊ぼうにも気分も乗らないよ」
「……。気分が乗らないなら仕方ないか。じゃあまた今度遊ぼうね!」
一瞬翳りが見えたような気がしたけど、満面の笑みで僕に『約束だよ!』と話してくる新谷さん。そんな彼女に曖昧に笑って反応を返し、席を立つ際に伝票を持って、レジへと一足先に向かう。
新谷さんはそんな僕に慌てて、忘れ物がないか確認して後ろから着いてきた。
「もう!置いていくなんて酷いよ!」
「1050円になります」
「えっ?あ、はい!」
僕は肩をすくめて店員さんに目配せをすると、新谷さんに割り勘分の金額を提示する。店員さんに話しかけられて慌てながらも財布を取り出して料金を払う。
「ケーキ美味しかったです、ありがとうございました」
「またのご来店をお待ちしております」
かっこいいと僕から見ても思う男性店員さんはかわいらしい笑顔で、送り出してくれる。男性が居てくれるだけでこういう店は入りやすくなるし、ありがたい。女性しかいないところに飛び込む勇気は流石に僕にはないし、また個人的に来ようと思った。
お店を出て、さあ帰ろうかと新谷さんを見ると、なんだか怒ったようにズイッと僕に顔を近づけてきた。
「もう、なんでそんなに先々行こうとするかな?」
「そう言われても。あとね、顔が近いから離れて」
「あっ、ごめん。じゃなくて!」
「置いていくようなことしてごめんなさい。……これでいい?」
「むっ……はぁ、もういいよ。中山君ってホントよくわかんない」
呆れなのか失望したのか。幾分か疲れたように話す新谷さんにもう一度謝罪しておいたが、ジト目で返された。
まあ、少し言い方が悪かったね……
「じゃあ、また学校でね」
「あっ……う、うん……」
反応は特に見ずに帰ろうと新谷さんに背を向けるけど、何か言いたげに反応するので、振り返り話を聞こうとする。
なんとも言い難い表情で口を開いては閉じを繰り返し、頭を横に振ってから、一瞬ほんの少し俯き顔を上げてどこかいつもと違うように感じる笑顔を見せてきた。
「また明日」
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降っていた雨が更に強さを増して、昼前にも関わらず夕暮れ時を思わせるかのような薄暗さと肌に貼り付くようなジメジメした湿気で陰鬱さが際立つ。
「……だめ、かあ」
彼女──新谷萌は、彼と別れてから帰宅の途につく。所在無さげに斜めに差している傘の持ち手をクルクルと回し、落ちてきた雨粒を弾く。傘で隠れているからか、はたまた空が暗いからか、どこか影の指す誤魔化すような笑顔で空を見上げる。
「ちょっとだけ、頑張ったんだけどな」
自嘲するかのように呟きを零す彼女。
その時、ピロンと彼女のスマホが通知音を鳴らす。手慣れたようにメッセージアプリを開き、メッセージを確認する。
「……あっ、メッセージ。って、中山君!?なになに、もしかして気が変わったとか……?」
メッセージを読み、顔が更に曇る。見るのも嫌になり、メッセージアプリを閉じて、ワイヤレスイヤホンをセットする。音楽をかけはじめる頃に、ほんの少しだけ鼻の奥がツンとしたような感覚を覚えて慌てて首を振り、気分を誤魔化す。
「あーあ……手伝うことも許されないんだね……。仲良くなりたい宣言してたのに、早くも心が折れそうだよ、かおりぃ……」
上がっていた気分はすっかり雨で冷やされ、前髪を留めていたピンを外し、周りを拒絶するかのように目を隠して彼女は自宅へと歩き出した。
動くような動かないような。
いつも読んでいただきありがとうございます!
まだしばらくは遅くなるかもしれません。




