転校生君と放課後の話し合い 1
雨の日のケーキ屋さんに行った翌日。
今日は何もない素晴らしい1日だったので授業内容はともかく、他は特に記憶に残っていない。
新谷さんもみんなには昨日のことを話していないらしくて、話題には上っていないみたいだ。時々、僕を見てくるのでそちらに視線を向けるとプイッと逸らされる。謝罪が足りなかったのはわかっているので、また機会を伺って謝ろう。
そんなわけで放課後。
八宮先生に呼び出されていることを思い出して、少しめんどくさいなって思う僕だけど、先生との約束は破らないようにしないとね。
カバンにさっきまで広げていた教科書や筆箱を片付けていると、林道君がちみ姫さんと櫻井さんとを引き連れて……いや、勝手についてきてるだけか。そのまま僕に話しかけてきた。
「なかやまー、今日は部活休みなんだよ」
「そうなんだ。じゃあ今日は家でゴロゴロできるね」
「ああ、そう……って、ちがうちがう!遊びにいくぞ、中山!」
「えっ。僕と、その……キミ達が?どうして?」
「なんでそんなに不思議そうなんだよ!?俺達一緒に勉強した仲だろ?」
「ああ……キミが騙し討ちしたやつね。はやくデラックスイチゴマウンテンパフェを奢ってもらわないと」
僕がパフェのことを話すとちみ姫さんが林道君を押し退けて、僕の机に手を付きズズイッと前のめり気味に、というか顔を近づけてくるので思わず椅子ごと後ろに倒れそうになった。
本当になんなの、このクラスの女子。パーソナルスペースってご存知?…何回目の心のツッコミだろうね。
「だ、だましうちってなんですか……?しゅーくん、しゅーくんのおともだちさんに何かしたの……?」
「みちるには関係ないだろ」
林道君に関係ないと言われて、俯き暗い雰囲気を纏い始めるちみ姫さん。そんな彼女を後ろからお腹の辺りに手を回して抱きしめて、櫻井さんは林道君を無表情でジッとみる。
「いいえ、林道さん。あたし達は幼馴染という関係上、聞かないわけにはいきません。幼馴染が犯した罪はあたし達の連帯責任でもあります」
「罪って、おまえ。大袈裟に言うんじゃねえよ」
「なにより」
林道君に被せる形で声を上げる櫻井さんに僕も林道君も面食らう。
「みちるさんが納得行くまで話すのは世界の常識です」
「そんな常識しらねえ……」
「しゅーくんが教えてくれないなら、おともだちさんに聞きます!」
ここで気を取り直したか、再びちみ姫さんが僕の方へ顔を近づけて圧をかけてくる。物理的に。
それを櫻井さんと林道君が引き戻してくれたので席を戻す。
「別に教えるのはいいけど、また今度ね。それと……夫婦漫才するなら別のとこでやってね。僕、先生に呼ばれてるからはやく行かないといけないんだからさ」
クラスに残っている何人かに注目されてるのが鬱陶しくて、呆れを含ませたように話して林道君達に対して邪魔だと言わんばかりにシッシッと手を動かす。ちみ姫さんは悲しそうにして、櫻井さんはなんだかよくわからない表情で眉だけはぴくりと動き、林道君は申し訳無さそうにしていた。
「先生に呼ばれてるなら仕方ないな」
「聞き分けが良くて助かるよ、林道君」
「最初からそう言ってくれたらすぐ諦めたけどな」
「それは……ごめん」
「気にするな、中山。今日は大人しく帰るとするかなあ」
林道君が帰るとか言うからどこか暗い雰囲気になるちみ姫さん。櫻井さんはそんなちみ姫さんをジッと見ていた。
「いやいや、僕を誘うくらいなんだから。そこのちみ姫さんと櫻井さんと一緒に遊んできたら?」
なんとなく放っておけなくて、ついつい口を出してしまう自分に苦笑い。
林道君は数秒ほど考えて、ちみ姫さんと櫻井さんを見る。
「それもそうだな……たまには3人で遊びに行くか?」
「っ!!うん!」
「みちるさんが行くならあたしも着いていきますよ」
嬉しそうな表情でちみ姫さんが頷き、櫻井さんも柔らかい笑みを称えて言葉を返している。ちみ姫さんはともかく、櫻井さんは素直じゃないね。自分も林道君と遊べるのが嬉しいだろうに。
「纏まったようで何より。2人は最初から誘ってほしそうにしてたから、今度からはちゃんと気づいてあげてね。林道君」
へ?って呟きが漏れた三者の事は放っておいて、カバンを持って席を立ち、教室を出る。
まあ、僕としては林道君にぜひとも川瀬さんを引き取っていただいて、クラスの視線を逸してほしいという願望がないではないけど。最近読んでいる本のせいでちみ姫さん達の応援もしたくなっている。どこかで見切りをつけないとだけどね。
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さてと、職員室に呼ばれてたかな?と昨日の事を思い返しながら廊下を歩いていると、後ろから肩を優しく叩かれる。振り向くと僕の前の席に座ってるクラスメイト男子の恐らく彼女さん(?)だった。
「奏君、昨日はありがと!ナイショにしてくれたんだね」
「えっと……新谷さんに言わなかったこと?」
「そう!クラスの女子に知られると面倒だかんね!」
「僕に知られるのはいいんだ」
明るい茶に染めたセミロングの髪を弄りながら、ニヤリと彼女さんは僕に対して笑いかける。
ツリ目がちだから意地悪そうな笑みに見えてしまうのは、ちょっとかわいそうだなって変に思ってしまった。
そんな僕の内心を知ってか知らずか。軽い調子で話し始める。
「奏君はさ、よく話す秀君とか委員長とか交流のあるクラスメイト以外の名前覚えてないっしょ?」
「え?それは、その……ごめん。キミの名前も知らないんだ」
正直に謝ると、なぜか彼女は嬉しそうに口を開く。
「うんうん。それでいいんだって。そのおかげで秘密が漏れることもないし」
「はあ。そういうものなのかな」
「納得いってない?例えばさ。名前も知らない子の秘密を握って広めようとしても、名前がわからないから特徴を言うしかないでしょ?」
「そんなしょうもない事しないよ」
「だから例えばの話!特徴なんて感じ方は人それぞれなんだからうまく伝わらないし、別の子だって勘違いされることもあるんだよね」
「ふーん?でも僕の席の前にいる……って言ったら大抵わかっちゃうよね」
「それは、……でもクラスの子にしかわかんないし、まず奏君はそんな事しないっしょ?」
「する意味もないからね」
どうしてそこまで隠したいのかはともかく。僕に彼女と彼氏さんの関係をバラす意味はないし、まず誰に話すんだよという。ああ、あの時一緒にいた新谷さんか。
誰と誰が仲良いとか、バレると問題が出てくるとか。誰が仲良かろうが人の勝手だし、みんな放っておけばいいのに。
でもみんな気にするし、羨ましいという気持ちになるだけならいいけど、場合によっては嫉妬や怨みに変わってしまう。……それはやがて暴力にも繋がる。
そんな事例に、まあ思い当たるような当たらないような。
そういう事を考えるだけで気持ち悪くなるし、考えないようにしないと。
「あれ……ごめん、引き止めて。もしかして体調悪かった?」
「そんなことはないけど、どうして?」
「どうしてって。顔が……ううん、なんでもない。じゃあそろそろ行くわ、奏君。バラしちゃ嫌だかんね?」
「わかってるよ。あと、さっきから言おうと思ってたんだけど。流石に気になるからさ、名字で呼んでよ。ナナシさん」
「名前がわからないからナナシさん?センスいいねっ!でもね、人の呼び方は自由じゃん?だから、奏君。また明日!」
「あっ、ちょっと!……廊下を走るもんじゃないよ、ナナシさん」
廊下をパタパタと走っていくナナシさんの背を見送り、再び職員室へと歩いていく。
センスがいいかはちょっと自分でも首を傾げるところではあるけど、名前がわからないからどうしようもない。八宮先生に聴くとするかなあ。
さて、今日は何を聞かれることになるんだろうか。
流石に課外活動の時みたいに踏み込んでは……いや、あれは僕が無駄に話しちゃっただけ、なんだけど。
少しだけ不安な気持ちになりながらも、職員室の戸を叩き、開く。
「失礼しま──
「申し訳ございませんでした!!!」
──す?」
職員室内の全ての関心を引き受けるかのように、大きな声と身体が床に付くかと錯覚するくらいに勢いよく頭と上半身を下げて、謝意を表す女子生徒。
その謝意を受けて、なぜか困惑気味な八宮先生の視線が僕を捉える。
『頼むから早くなんとかしてくれ』という心の声が、聴こえたような気がした。
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