転校生君と雨の日ケーキ2
遅くなりました。
新谷さん……
隣にいるのに何故かグループでメッセージのやり取りをしたり、今はまっているソシャゲをしながら待つこと1時間。
ようやくお店の中に入れた僕らを、外でも感じていた焼き菓子特有のバターやクリームの甘かったり香ばしかったりとする香りが歓迎してくれる。
あたたかな気持ちを湧き立たせてくれる橙色と気分を明るくしてくれる白色の光に照らされ、店内は外の雨を忘れさせるほどの賑わいを見せていた。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので。店内には3人どころか十数人いるわけだけれども。でも、それは悪いわけではなく、店内の雰囲気をより引き立たせている……ような気がする。
僕のような男性にはちょっとだけ居心地悪く感じてしまうけど……。なんだかジロジロ見られてるし。やっぱり珍しいのだろうか。
視線を切るように、店員さんが案内してくれた席へと、新谷さんとは向かい合わせで丸テーブルを挟んで座る。
電子ベルとメニュー表を置いて持ち場へと戻っていく店員さんを見届けて、メニュー表に目を落とす。
「写真を載せてくれてるのはありがたいね。持ち帰りカウンターに並んでいるケーキがそのまま載ってるから、一応確認はできるけどさ」
「どれも美味しそうだよね」
「そうだね……。新谷さん、ところでどれが6月限定なの?」
「ここだよ。このページ」
「はー、青の紫陽花イメージかあ……。こっちは……えっ、カタツムリ?キレイだけど、食べてお腹壊さないかな?」
「ちゃんと食べられるよ。カタツムリケーキはちょっとわからないけど」
「不安になるようなこと言わないでよ。こっちは……あっ、珍しい。和風ケーキ……これはもしかして水無月?」
「6月30日がどうのって話で作ったんだって。小豆のかわりに甘納豆を使って見た目だけ寄せたチーズケーキなんだよ?」
「あー、夏越の祓か。それで水無月風……ちょっと不安になる組み合わせだなあ。でも食べてみたいな。僕これにするよ」
「そう?じゃあ私は紫陽花の方にするね。カタツムリは……今度陸に食べてもらおう」
「赤羽君の扱い……」
ジロジロ見られながらもメニュー表を見て、頼みたいケーキと飲み物を店員さんを呼んで注文する。
新谷さんの後ろの方で座ってるあのカップルなんて人目を気にせずケーキを食べさせあって、イチャイチャしてるなあ。……あれ、もしかしてクラスメイトの僕の前の席に座ってる人達か。まあまあ、堂々といちゃついちゃって……あっ、気づかれた。
「中山君、どうしたの?」
「うーん……僕が思ってるより、みんな進んでるんだなって」
「どういう事かな?」
「……うん。ただの独り言だよ。新谷さん達に負けたくないなーって思ってさ」
「よくわからないけど、もしかしてこの前のテストのこと?それなら、今度みんなで一緒に勉強しよっか」
「それだと僕一生キミたちに勝てなくなりそうだなあ。……提案なんだけど、次のテストまで勉強サボっててくれない?」
「えっ?嫌だけど……」
何故か手を合わせて、女子の方が言わないでほしいアピールをしていたので、新谷さんには言わないように話を逸してみるとわりと上手くいったみたいだ。
「中山君の点数、そういえば聞いてなかったね。どうだったの?」
「ないしょ」
「えー?それはないよ、中山君!中山君は私達のメッセージグループで点数見たでしょう?」
「さっきケーキの事を教えてくれなかったおかえし」
「すぐにわかるからいいと思ったんだもん……」
前回のテストの結果は貼り出されていた人達のものとは別に、なぜか入れられているメッセージグループに自分達の点数を流していた新谷さん達。
まあ、僕は既読スルーだ。みんなの点数を知ったところで別に何も変わらないよね。
「お待たせ致しました。限定ケーキセットです」
「ありがとうございますっ」
店員さんがケーキと僕にはコーヒー、新谷さんにはミルクティーを持って来てくれる。お礼を言うと微笑み、『ごゆっくりどうぞ』と言って離れていく。
あの店員さん、かっこいい系なのに笑顔がとってもかわいらしい。若くてイケメンと呼ばれる側の男性店員さんを目的として来てる女性客も多いんだろうなあ。
斯くいう新谷さんもキラキラとした目で店員さんを……いや、色気より食い気か。もうケーキに目移りしてるや。
「見て見て!紫陽花かわいい!」
「かわいい……?」
芸術作品かと思う程に凝られた花びら1枚1枚丁寧に作られた小さな紫陽花ケーキ。かわいいというよりは美しいが似合いそうだなと思っている。限定というだけあって値段もかなりお高めだったけど、これだけ凝られたケーキなら味わう前でも納得だ。
一方、水無月風チーズケーキ。上に乗った甘納豆が色取り取りってのはあるけれど、見た目があまりよろしくないと感じるのは本家本物を見ているからだろうけど。下の本来はういろうのような部分はチーズケーキで出来ているし、なんならカンテンで固めているような……。
まあでも、水無月はこんな感じの見た目だ。まあチーズケーキだし、食感までは多分再現できないだろうね。
「まあ、大事なのは味だよね」
「味も保証するよ!」
新谷さんは常連みたいだし、味も知ってるか。新谷さんが保証してくれるのをどこまで信用していいかはわからないけどね。
当初の予定通りに取り分け用のお皿とフォークを貰おうとして気づく。いつの間にかテーブルに置いていて、驚きで店員さんの方を見ると口の前に人差し指を立てて、片目をパチリとウィンクしてくる。顔が良い人がやると様になるなと思いつつ、考えを読まれているようでプロって凄いと戦慄していた。
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます」
ケーキをスマホで撮って、少し操作したあとに食べ始める新谷さん。なんとなく先に食べるのは忍びないので、待っていたんだけどさ。どうして女の子達は写真を撮るんだろうね。
「ん〜!おいひぃ!」
幸せそうに食べてる新谷さん。そんな姿に、まあいっかと疑問は思考の外に投げ捨てる。
一口、二口と食べ進める新谷さんを見ながら、僕のケーキも食べる前に分けておこうかと半分切り分けて、取り分け用の皿に乗せて新谷さんの方に置く。
新谷さんは何故か不思議そうに僕と取り分けられたケーキを見ている。気づいてないな、これ。
「あっ」
小さな声を洩らし、申し訳無さそうに体を揺らして視線を落としている新谷さん。
「ごめん、中山君……分ける前に食べちゃったよ……」
「ううん、いいよ。新谷さんが全部食べちゃってよ」
「でも……」
「僕はこれだけで十分だから」
半分になった水無月風チーズケーキをフォークで一口大に切り、口に運ぶ。
おっ、意外と美味しい……。甘納豆とレモン風味のクリームチーズ……合わないと思ったんだけど、何か工夫しているんだろうか。流石に限定を謳うだけはあるなあ。
味に満足しながら次々に口に運ぶ僕を見て、自分の片側が凹んでしまったケーキを見る新谷さんは、小さく何かを呟く。
なんだろうかと思い見ていると、自分のフォークでまだ手を付けていない側を掬って僕の口元に差し出してくる。
「どうぞ、一口食べてよ、中山君」
「いや、いやいやいや!な、何してるの?」
首を傾げて何が悪いのかと疑問に思っているところだろうけど、そのフォークで食べてたでしょ!と目で訴えても効果なし。新谷さんの後ろに座っていた同じクラスのカップルは既に帰ったみたいで、まだこの状況を見られていないだけマシかな……。
「美味しいよ?」
「そういう問題じゃなくてですね……」
「もしかして照れてるの?それになんで敬語?」
心底不思議そうにしている新谷さん。
思わず溜息を吐きたくなってきた。
「新谷さん、仮にですね」
「うん?」
「僕が、あなたに同じ事をしようとしていたらどう思いますか?」
「どうって……なんで?」
わかっていない新谷さんに、今度こそ溜息が漏れる。
「“僕が”口をつけたフォークでケーキを食べさせようとしてきたら、どう思いますか?」
「美味しそうだからお裾分け?」
「あの……本気で言ってないよね。いや、冗談でもちょっと理解出来かねるけど」
「うーん……まあいいから食べてほしいなっ」
「ちょっ!?ムグッ……」
「ほら、美味しいでしょ?」
悩んでいた新谷さんは、僕が口を開けた瞬間を狙ってケーキを捩じ込む。フォークで突き刺さないようにはしているみたいだけど、普通に危ないからね。真似しないでね。
悔しいことに紫陽花型ケーキは花びら1枚1枚にもしっかりと味がついていて、青が濃いところはブルーベリーのような味、薄いところはヨーグルトのような酸味を感じる……みたい。多分。食べた感じでそんな印象を受けたけど、そんなことより。
「……新谷さんはもしかして、アホなの?」
「えっ」
「こんな事、普通はクラスメイトにやらないよね。知り合いに見られたらなんて言うのさ」
「かおりにしてるのと一緒だから問題ないよ?」
「そういうことじゃなくてですね?」
思わず頭を抱える僕の右肩を誰かが叩いたみたいで、そちらに目を向ける。
うるさくしすぎて店員さんに怒られるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。すっかり見慣れた、大人の顔が隣にあった。
「は、八宮先生!?」
「よう、新谷と中山。新谷、もう少し声を落とせ。お前達の関係がどうかはしらんが、目立ってるぞ」
「え?」
周りを見るとニヨニヨとした顔で僕らを見ているお姉様方。可哀想な人を見る目で僕に同情か何かを感じていそうなお兄様。店員さんのいい仕事しましたみたいな満足気な表情。
僕らは見世物じゃないんだけどな……
新谷さんは気付いたのか、赤くなって俯きがちになっている。
そんな新谷さんと、僕を見比べて苦笑いになる八宮先生。
「八宮先生。ちょうど良かった。ケーキを食べに来たのならいっしょしません?」
「えっ」
「中山……いいのか?」
「だって、お一人でしょう?みんなで食べたほうが美味しいですよ」
「そんなこと思ってないだろう。棒読みだぞ、中山」
新谷さんがさっきから『えっ』としか言ってないのは放っておくとして、八宮先生に呆れたような表情で見られているのはちょっと納得がいかない。
「気の所為ですよ」
「どうだかな……」
「まあ、本当に一緒に居てもらいたいんですよ。ちょっと聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?なんだ、悩み相談なら学校でじっくり乗ってやるが」
「残念ながら、僕自身のではないのでじっくり聞かれても困るんですけどね」
「よくわからないが……。店員に相席していいか聞いてくる」
八宮先生が店員さんに声を掛けに行くのを見ながら、僕は、ジト目になっていた新谷さんの視線から目を合わせないようにしていた。
「相席しても良いそうだ。ケーキも頼んだ……って、新谷どうした?」
「いえ、なんでもないです」
「……なあ、中山?お前達もしかしてデート」
「先生が思うような事は一切無いんで安心してください。クラスメイト同士の交流なんで」
「お、おう。そうか……そうだな」
何かに引っかかったような顔になった八宮先生は、次の瞬間には気遣わしげに僕を見る。あの時の話がまだ気になっているんだろうけど、そんな目で見ないでほしい。
僕の心情を知ってか知らずか。僕の斜め右の位置に座った先生は改めて口を開く。
「それで、聞きたいこととは。先生に解決できそうな話か?」
「まあ、どうでしょうね。……実は保健委員会と放送部、それと生徒会のことなのですけど」
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