転校生君と雨の日ケーキ1
遅くなりました……
一つ前にも書いてますが、まだしばらくは更新が遅くなります。
梅雨のはじまりを告げる雨模様。せっかくの休日が雨で台無しなのが辛いところだ。響も『雨の日の試合ってやだなあ』なんてブツブツ言いながら出掛けていった。
今日は母さんもいない。ママ友?にお茶に呼ばれたらしい。お茶会は始まると長いから困るんだけどな。今日のお昼ご飯は僕自身で用意しないといけないのか。
自分の部屋の机に向かい、平日にやっていた授業を思い出しながら教科書とノートをペラペラ捲っていると、充電していたスマホの画面がピカッと光る。
どうやら暇な子がメッセージを送ってきたらしい。
『なかやまくーん!』
『ひましてなーい?』
『暇ならちょっと付き合ってほしいなー』
個人の方でメッセージを送ってきたのは新谷さん。僕にわざわざ言ってくることに思い当たる事もないので質問してみるかな。
『どうしたの?』
『実はね、今日は6月の土日限定ケーキの販売日なんだよ』
『(ヨダレを垂らしてる犬のスタンプ)』
『おひとり様、1個までで』
『良ければ中山君にも付き合ってもらって買いたいなーって』
『(おねがいします!と書かれた伏せて上目遣いの犬のスタンプ)』
僕が送った瞬間に既読になり、返信が5秒と待たずに次々に返ってくる。
限定スイーツ……でも僕がついていっても新谷さんになんのメリットもないはずなんだけどなあ?
『僕が買ったケーキも買い取るってことかな?』
『ううん、そうじゃないの』
『店内で食べる限定なんだ〜』
……?
思わずスマホを握る手と画面を見る目に力が入る。
それなら尚更僕じゃないほうが良くない……?
『え、上村さんを誘えば良くないかな?』
『かおりは今日ダメだったんだ。他のみんなも出かけてるみたいだし』
『でもでも』
『ケーキは2種類食べたいから!』
つまりは2人で出かけたいと。わかってて言ってるのか、わからないけど……。僕になんのメリットもない気がするなあ。
『新谷さんにケーキを渡すのは別に構わないけど……』
『僕は新谷さんが食べてる姿でも配信してれば良い?』
『何を言ってるの?』
『中山君も一緒に分け合って食べようよ』
『キミが何を言ってるの?』
『別におかしな事は言ってないけど……』
『お皿に分けて食べれば問題ないと思うよ』
それはそうだ。分け合うときいてメッセージを送りながら、考えていたのは『あ〜ん』って言いながら自分のフォークでケーキを相手に食べさせる行為。
そんなことはよく考えなくてもするわけないし、取り分け用の小皿とか貰えば解決するじゃないかと新谷さんのメッセージを見て思った。
林道君達をトレースしてちょっと前に読んでいたラブコメに影響されたんだろうか……なんだか恥ずかしい。
『そうだね』
『どこに集合?』
『前に会ったショッピングモールの近くにある駅でいいと思うな?』
『お店、そこから徒歩5分くらいのところにあるから』
『わかったよ』
『今から準備して出るね』
『(了解しました!という文字と敬礼する2足歩行の犬らしき何かのスタンプ)』
雨の日に出かけるのは嫌だけど、断ると保健委員としての仕事に悪影響が出るかもしれない。
……なんて思ったけど、断ったところで何か影響があるとは思えなくなっている。先日の新谷さんとの会話を考えると、僕みたいな奴と仲良くなりたいらしいので少し小言を言われるくらいだろうなあ。まあ……それはそれとして、了承した以上は集合場所にいかないと。
慌てながらハンカチやポケットティッシュ、財布にスマホを持ち、愛用のリュックサックを装備する。
家の戸締まりやガスの元栓の確認をして、部屋の電気も消しておく。最後に玄関に置いてる鏡で全身を確認して……よし。
「行ってきます!」
勢いよく外に出たのはいいけど、少し頭が濡れてから雨が降っている事を思い出し、傘を取りに戻るハメになったのは言うまでもない。しかもカギまで掛け忘れてる……慌てるのはダメだね。誰も見てなくて良かった。
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駅につくと、雨だからなのか休みだからなのか、人がいつもより多く見える。せっかくの休日だからと出掛けて遊んだりして楽しみたいんだろうか。
雨の日も特別セールがやっていたり、湿度が犠牲になるかわりに気温がマシになったりと悪くはないんだけど、それで外に出るかと言われると微妙なところだ。
現在の時刻は午前9時40分を少し過ぎたあたり。新谷さんは既に来ていたりは……
「あっ!」
「あ?」
キョロキョロと探していると、青の……ちょっと緑が混じったような色のロングスカートに白のTシャツ。上に……なんだろう、何かを羽織っている姿で花柄のかわいいヘヤピンをしてキラキラとした目をした女の子が、こちらに向かって走ってくる。…どちら様?
「中山君!おはよっ!」
「え、あ、うん…おはよう」
僕のこと知ってるの?ってオロオロしてたら、相手の女の子はムスッとした表情でぷくっと頬を膨らませる。
「もしかして気づいてないのかな?新谷だよ。新谷萌」
「えっ」
学校で見る姿とあまりにも……とは言わないまでも感じが全然違う。なんでだって思って、顔を観察するように見る。
新谷さんは少し目を彷徨わせていて、ほんのり赤くなったような……?その、よくわからないけど傘をくるくるさせるのは今すぐやめよう。周りに迷惑かけ……すぐ近くにはいないけど雨粒飛ばしちゃうから!
そんなことを思いつつ、新谷さんを観察していて、理解した。僕の側から目がしっかりと見えているんだ、今の新谷さん。前髪をヘアピンで留めてるからかな。
「ごめん、新谷さん。髪で目が隠れてないから印象がだいぶ違ってて……正直、『誰この女子』って思ってたよ」
「それだけ?」
「それだけ、だけれど。何かまずい?」
あからさまにガックリと肩を落として暗い表情の新谷さん。
なんだろう、何かに気づくべきだったか。なんて思いながらも、それより気になっていることがある。
「えっと、そんなことより新谷さん。この前言ってた『男の子と恥ずかしくてまともに目を合わせられない』から目を隠してるのは、お休みだと無効なの?」
僕の言葉を受けて口をパクパクさせて、『まさか』とか『本気で言ってる?』って思ってそうな顔で僕を見ている。あっ、今小声で言ったね。
「まずね、そんなこと扱いされてね。私の中の女の子が泣いてるよ、中山君。それに、理由に思い当たるところはない?」
「そう言われましても」
「───のに」
「えっと、何かな?」
「なんでもないです!ほら、行くよ、中山君っ」
どこか乱暴な感じの歩き方でどこかへと歩みを進める新谷さんに首を傾げる。何を言ってるかわからないなあ……なんて考えながら、新谷さんについていく。この人は、今はいいけどちょっと厄介だなあ。
「なにか言った?中山君?」
先を歩いていた新谷さんが振り返り、僕に疑問を投げかけてくる。心の声がどうやら口に出ていたらしい。幸い内容までは分からなかったみたいで、不思議そうに見ているだけであった。
「ううん、なんでもないよ」
「そう?それならいいけど。ほら、早く行こ!私達をケーキが待ってるよ!」
「ご機嫌だねえ……。そういえばケーキの種類を聞いてなかったけど、どういうケーキなの?」
「うーん……秘密」
もう機嫌が直った……というよりはケーキが楽しみで、気持ちを切り替えたらしい新谷さん。今はスキップでも始めそうなほどご機嫌な様子で鼻歌までしている。
いや、キミ。そのスカートでスキップしたら危ないからね。雨も降っているのに。
とは思いつつも、特に指摘もせずに会話を続ける。
「秘密かあ」
「損はさせないよ!ところで、中山君はどんなケーキが好き?私はね、ベリーソースのかかったレアチーズ!」
「僕は特にこだわりないけど、イチゴのショートケーキなら好きかも」
「そうなの?案外おこさまだね」
「定番人気をお子様呼ばわり……子どもが好きなら大人も好きになっていいでしょ?まだ僕たちは世間一般的には子どもだけど」
「うん。私も大好きだから、まだまだこどもだよ!」
「嬉しそうに言う事かなあ……」
いつの間にか隣を歩いている新谷さん。色々な意味で、キミは厄介だよ。切り替えの速さと、距離の詰め方と……後は、ね。
ケーキは楽しみだけど先のことを思うと、天候も相まって憂鬱になってきた。
僕の顔を横から不思議そうに見ていた新谷さんに曖昧に笑ってみせる。少しだけ視線を外して傘の持ち手をまたくるくると回し始め……歩いているうちに雨の音に混じり、声がざわざわと聞こえてきた方向に目をやる。
洋菓子店だろうか。小さいながらも淡いピンクと白黒を使ったおしゃれな外観のお店に、女性がざっと10組程並んでいた。よく見ると男性も……なるほど、カップルでも来る場所なのか。
「おお、雨なのに結構並んでるね」
「まだ少ないほうだよ」
「……これで?」
「そう、これでね。驚いてないで私達も並んじゃおう!」
「……そうだね」
並んでいる姿、他の人が見てたらどう思うんだろうなあ。なんて事を最後尾に並んで思う僕。それをまた不思議そうに見る新谷さんは、次の瞬間には満面の笑みを浮かべて『楽しみだね!』なんて言うものだから、何も言えず悔し紛れに『新谷さんって、意外と食いしん坊……太るよ』と返しておく。
そんなことをすると当然新谷さんは怒るわけで、肩を強めに叩かれる。何度もボスボスと叩かれながら、中に入るまで雨の中2人で順番待ちをしていた。
いつも読んでいただきありがとうございます!




